ラシックス(フロセミド)とはどんな薬?

ラシックス(サノフィ、日医工、主成分フロセミド)は、尿の量を増やすことで体の中の水分を減らす効果をもつ利尿薬と呼ばれる種類の薬で、高血圧の治療や体のむくみ(浮腫)の治療に用いられます。体内の水分量は、さまざまな調節メカニズムにより適切な範囲内で維持されますが、何らかの原因で調節ができなくなると手足に浮腫となってたまったり、血液量が増えて血圧が上がります。

ラシックスの主成分であるフロセミドは、腎臓からのナトリウムイオン・塩素イオンの再吸収を低下させ、体外への排出を増やす作用を持ちます。これらのイオンの移動には水の移動も伴うので、これらのイオンの尿への排出増加は尿の水分量の増加につながり、尿の量が増えるのです。

ラシックスは、ループ利尿薬というカテゴリに分類されます。「ループ」というのは、腎臓の中で尿ができる場所の一つである「ヘンレループ(ヘンレの係蹄)」のことであり、主成分のフロセミドが作用する部位です。ヘンレループは、尿ができる最初の部位である近位尿細管と呼ばれる位置にあり、ナトリウムイオン・塩素イオンを吸収する役目を持っています。

フロセミドは、ヘンレループにあるNa・K・2Cl-共輸送担体(NKCC2)というタンパク質の作用を強く阻害します。このタンパク質は、近位尿細管を流れる尿から、ナトリウムイオン、塩素イオンを体内に取り込む働きを持っています。ラシックスを服用すると、NKCC2の働きが止まるので、ナトリウムイオン・塩素イオンが尿から再吸収されません。

腎臓での尿の作られ方は、まずは血液を糸球体でざっとろ過して、大量の尿のもと(原尿)をつくって、必要なイオンや水分を尿細管から吸収して濃縮するというものです。つまり濃縮するための再吸収をとめれば、再吸収を受けない原尿がそのまま尿として排出されるので、尿の量は増えます。ラシックスは近位尿細管のヘンレループでの再吸収を強く止めて、尿の量を増やすのです。

ラシックスは強力な利尿作用を持つので、ドーピングした選手が薬剤の痕跡を消すために用いられることがあります。これは、腎臓からの薬剤の排泄速度を高めることができるからです。もちろん、スポーツ界ではこのような利尿薬の仕様も禁止とされています。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


ラシックス(フロセミド)の構造式