リザベン(トラニラスト)とは?ナンテンから生まれた日本初の飲む抗アレルギー薬
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リザベン(キッセイ薬品工業、主成分トラニラスト)は、気管支喘息やアレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、肥厚性瘢痕・ケロイドの治療に使われる飲み薬です。また、リザベンには点眼薬もあり、アレルギー性結膜炎に使われます。リザベンは、ナンテンの研究から生まれた日本初の飲む抗アレルギー薬(ケミカルメディエーター遊離抑制薬で、花粉症などで使う抗ヒスタミン薬とは別のタイプです)です。
リザベンは、1982年6月に気管支喘息の効能を取得し、同年8月に発売されました。その後、1985年にアレルギー性鼻炎とアトピー性皮膚炎の効能が加わりました(リザベンのインタビューフォームより)。
リザベンは、もともと抗アレルギー薬として開発されたのですが、その後、肥厚性瘢痕やケロイドができる仕組み(TGF-β1などの物質がコラーゲンを増やす)に注目して、1988年から肥厚性瘢痕・ケロイドを適応とした臨床開発が始まり、1993年にこれらの病気への効能が加わりました。
1982年の発売から40年以上たつ薬ですが、現在も、その働きの仕組みには謎が残っており、作用メカニズムの研究が行われています。
リザベンの作用メカニズム
気管支喘息やアレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎などのアレルギー性疾患は、アレルギー反応が原因で起こる病気です。
アレルギー反応とは、生体外の異物に対する体内の免疫反応が亢進した状態です。このとき、炎症反応を起こすケミカルメディエーター(ヒスタミン、ロイコトリエンなど)が、さまざまな免疫細胞(肥満細胞(マスト細胞)、好塩基球など)から放出されます。ケミカルメディエーターは、血管を広げたり、血管から水分を漏れやすくしたり(鼻水、浮腫の元)、気管の筋肉(気管平滑筋)を刺激して気管支喘息の発作を起こしたりします。
リザベンの主成分であるトラニラストは、免疫系の細胞がケミカルメディエーターを放出させないようにします。そのため、アレルギー反応が起こっている部位のケミカルメディエーターが減少して、炎症や鼻水、喘息の発作を軽減することができるのです。
また、リザベンは皮膚の病気である肥厚性瘢痕やケロイドの治療にも使用されます。
肥厚性瘢痕は、怪我や手術により皮膚が傷ついたとき、傷が治る過程で、コラーゲンが作られすぎてしまい、皮膚が盛り上がって赤みや硬さが残る症状です。ケロイドも、肥厚性瘢痕と似た症状を示し、起こりやすい体質を持つ人がいるとされますが、ケロイドが起こる原因はわかっていません。肥厚性瘢痕やケロイドは、外見を損なったり皮膚のひきつれなどを引き起こして、患者さんの生活の質(QOL;Quality of Life)を低下させます。肥厚性瘢痕やケロイドでは、皮膚でコラーゲンというタンパク質が大量に産生され蓄積することで「線維化」という状態が起こることがわかっています。
線維化が起こる原因についても、多くの研究が行われており、コラーゲンの産生は、TGFβという生体内物質がコントロールしていることが知られています。マクロファージなどの免疫細胞からTGFβが放出されると、TGFβが皮膚の線維芽細胞(コラーゲンを作る細胞)のコラーゲン産生のスイッチをONにして、どんどんコラーゲンが作られることで、傷口が盛り上がって肥厚性瘢痕やケロイドが生ずるというわけです。
トラニラストは、免疫細胞からのケミカルメディエーター放出を抑制するのと同様に、TGFβの免疫細胞からの放出も抑える作用も持っています。その結果、線維芽細胞でのコラーゲンの合成が抑えられ、ケロイドの症状が改善すると考えられます。
肥厚性瘢痕やケロイドの治療にはステロイドの軟膏や注射などが使われていましたが、1993年にリザベンがこれらの病気に使用できるようになった(適応拡大)ことにより、内服薬による治療が可能となり、治療法の選択肢が増えました。
リザベンはどのように開発された?
リザベンの主成分であるトラニラストは、もともと漢方薬に使われる薬草「ナンテン」の研究から見つかりました。ナンテンの実や葉(南天実、南天葉)は、咳(せき)止めとして用いられており(日本では主に実が使われているそうです)、咳を止める効果を持つ成分を取り出して薬にしよう、というのが、リザベン開発のきっかけでした。
ナンテンには、アルカロイドと呼ばれる物質(抗菌作用をしめすベルベリンや、咳止め作用があるとされるO-メチルドメスチシンなど)を始め、さまざまな成分が含まれます。その中でも、ナンテンに含まれる配糖体(糖がついた化合物)が、アレルギーに対する治療効果を示すことがわかりました。この配糖体が、トラニラストの元になった化合物です。薬作りの世界では、このような化合物をリード化合物とよびます。リード(Lead)は、リーダーという言葉でも分かる通り、英語で「導く」という意味です。リード化合物は、薬剤開発における化合物合成の出発点となり、そこから様々な化合物が生み出されます。
トラニラストは、この配糖体の構造を簡略化して得られた化合物です。糖の部分を取り除いて小さくし、部分的に構造を付け替えて、抗アレルギー作用が最も高くなるように改良することでトラニラストが得られました。

創薬研究者から見たリザベン ― 標的がわからない薬
トラニラストのアレルギー疾患や皮膚疾患に対する作用機序(作用メカニズム)を見てきましたが、アレルギー反応に対する作用、皮膚に対する作用、いずれも免疫細胞からの物質放出を抑える、という意味では共通しています。しかし、トラニラストが、これらの物質放出をどのようにして抑制するかについては、よくわかっていません。
トラニラストのように薬を作るきっかけが、自然界に存在する化合物(天然物)である例はよく知られています。ただ、天然物の成分は、標的分子(薬がくっついて働く相手のタンパク質)が複数あったり、そもそも不明であることが多く、化合物があったとしても、そこからすぐに薬作りにつなげるのは難しいのが実情です。現代の薬作りは、特定の標的分子に最適化した化合物を作るのは得意ですが、標的が見えているということが前提なのです。
トラニラストについても、標的がわからないということで、研究現場ではここからすぐなにか新しいことができるかと言われると、よくわからないというのが正直なところです。ただ、新しい手がかりが見つかれば、話が変わります。
トラニラストの標的分子の候補 ― NLRP3インフラマソーム
2018年、トラニラストが、「NLRP3インフラマソーム」という、炎症を起こすスイッチの役目をするタンパク質の集まりに直接くっついて、その働きを抑えることが報告されました(Huang ほか、EMBO Molecular Medicine、2018年)。マウスの実験では、痛風や、一部の遺伝性の炎症の病気、2型糖尿病のモデルで効果が見られたと報告されています。これらの結果は、まだ基礎研究の段階であり、ヒトの病気に効くことが確かめられたわけではありません。
しかし、創薬研究者にとって、標的分子の候補がわかったことは大きな前進です。NLRP3が関係する病気に使えるのではないか。NLRP3を標的とする薬作りはすでに多く行われていますが、トラニラストが持つ抗アレルギー作用や線維化を抑える作用が合わされば、それらより強い効果が出せるのではないか。研究者のアイデアは膨らみます。
標的がわからないことは、創薬のブレーキになりますが、それ自体が問題というわけではありません。標的がわからなくても、体の中で何が起こっているかを解明することで、新しい使い道が見つかることがあります。リザベンが、作用の仕組みに注目してケロイドに使われるようになったのも、その一例と言えるかもしれません。わからないことをどう活かすか、ということが薬作りには大事だということを、トラニラストの例は示しているのだと思います。
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[この記事を書いた人]
薬作り職人
国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。