ミノマイシン(ミノサイクリン塩酸塩)とはどんな薬?

ミノマイシン(ワイス、主成分ミノサイクリン塩酸塩)は、様々な細菌によって起こる感染症の治療に使われます。ミノマイシンの「マイシン」は、抗生物質を表す言葉で、ミノマイシンは細菌の増殖を抑える抗生物質としての働きを持っています。

ミノマイシンは、血液から体内のさまざまな臓器に入りやすい性質をもっています。そのため、ミノマイシンは、皮膚の感染症(代表的なものとして、にきび)、肺炎・マイコプラズマ肺炎などの呼吸器感染症、腎炎・膀胱炎などの尿路感染症、中耳炎、など様々な部位の感染症に対して使われます。

ミノマイシンは、さまざまな細菌の増殖をとめる働きを持っています。ミノマイシンは、細菌がタンパク質をつくりだすための細胞内の装置、リボゾームの働きを止めてしまいます。そのため、細菌は増殖に必要なタンパク質を作り出すことができなくなり、増殖がとまってしまいます。すると、体の中の細菌をやっつける働きをもつ白血球が、元気のなくなった細菌を攻撃して殺してしまい、感染症の症状が治まるのです。また、細菌のリボゾームは、人間のリボゾームとは異なった構造をしているので、細菌のリボゾームにだけ効果を示すミノマイシンは、人間の細胞の増殖には影響を与えません。

ミノマイシンの構造式をみると、4つの六角形(輪)がつながっています。このような構造を持つ抗生物質をテトラサイクリン系抗生物質と呼んでいて、ミノマイシンはその中でも代表的な薬です。ちなみに、テトラサイクリンのテトラとは「4つの」という意味、「サイクリン」は、「サイクル」つまり「輪」という意味で、「4つの輪」の構造を持つという意味です。

ミノマイシン(ミノサイクリン塩酸塩)の構造式

ミノマイシンの特徴としては、カルシウムやマグネシウムなどに結合しやすいという性質が挙げられます。このため、ミノマイシンを飲むときには、カルシウムやマグネシウムを含む食べ物や薬を一緒に服用してはいけません。これは、ミノマイシンがカルシウムやマグネシウムと結合すると、小腸から吸収されにくくなってしまうからです。このような現象は、ミノマイシンのみを食前に水で服用することで避けることができます。

また、カルシウムに結合するという性質からは、思いがけない副作用も生じます。ミノマイシンを子供(特に8歳未満)に投与すると、歯が黄色くなってしまう、という副作用が報告されています。これは、ミノマイシンが歯の成分であるカルシウムに結合してしまい、歯がミノマイシンの色である黄色に染まってしまうからです。子供は、歯がどんどん成長している時期なので、カルシウムとミノマイシンが結合しやすい状態になっているのだと考えられています。この副作用を防ぐため、「子供へのミノマイシンの投与は、ほかの抗生物質が効かない重篤な病状などの特別なときに限る」よう、使用上の注意に明記されています。

ミノマイシンがにきびの治療のために若い人に使われることがあります。歯が黄色くなるという副作用が出る可能性は、子供に比べると低いかもしれませんが、一応このような副作用があるということを頭に入れておいたほうがよいでしょう(もちろん、お医者さんの指示にはできるだけ従ってください)。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。