テトラミド(ミアンセリン塩酸塩)とはどんな薬?

テトラミド(MSD,主成分ミアンセリン塩酸塩)は,うつ病の治療に用いられる抗うつ薬です。テトラミドの抗うつ作用は,脳の神経活動を活発にさせる物質「ノルアドレナリン」の量を増やすことで生じます。

ノルアドレナリンは,神経と神経が接続するシナプスという場所で,神経細胞から放出されます。神経から放出されたノルアドレナリンが,シナプスの反対側にある神経細胞に働きかけて,神経を活性化することで,脳の中での情報が伝達されます。

テトラミドは,このノルアドレナリンが神経から放出されやすくする働きを持っています。ノルアドレナリンを放出する神経細胞の表面には,ノルアドレナリンの放出をコントロールするα2アドレナリン受容体というたんぱく質が存在します。このα2アドレナリン受容体は,ノルアドレナリンの放出を抑える働きを持っているのですが,テトラミドはα2アドレナリン受容体に結合してその働きを止め,ノルアドレナリンが神経から分泌されやすくさせるのです。

テトラミドは,構造式の中に4つの輪が含まれている「四環系抗うつ薬」と呼ばれるタイプの抗うつ薬です。もともと抗うつ薬は,構造式の中に輪が3つ含まれる「三環系抗うつ薬」と呼ばれるタイプの薬から始まったのですが,三環系抗うつ薬には様々な副作用が認められます。そのため,三環系抗うつ薬の副作用を減らすことを目的に作られたのが、テトラミドなどの四環系抗うつ薬です。

テトラミド(ミアンセリン塩酸塩)の構造式

テトラミド以前の抗うつ薬である三環系抗うつ薬は,脳の神経の様々なタンパク質(受容体)に結合し,その働きを変化させる働きを持つことから,抗うつ作用以外の副作用が現れます。代表的な副作用には,アセチルコリン受容体というタンパク質の働きを止めたときに現れる口の渇き、便秘、目のかすみ、排尿困難などが挙げられます。

テトラミドのような四環系抗うつ薬では,アセチルコリン受容体に対する抑制作用が低いために,三環系抗うつ薬で見られる副作用が出にくくなっています。テトラミドの抗うつ作用は三環系抗うつ薬と同等以上の強さを持っていることから,テトラミドは使いやすい抗うつ薬だといえます。

テトラミドの主成分であるミアンセリンには,抗うつ作用のほかにも面白い作用があります。ヒトではなく,小さな線虫という生物での話ですが,ミアンセリンは線虫の寿命を延ばす働きがあります。線虫の研究者が,線虫の寿命を延ばす化合物を探すために,世の中にある数千種類もの化合物をテストして見つけたのが、抗うつ薬として使われていたミアンセリンでした。ミアンセリンが効果を示すメカニズムは,線虫の体内のセロトニンという物質の作用をコントロールするためだとされていますが,詳しいことはよくわかっていません。もちろん,テトラミドを飲み続けたからといってヒトの寿命が延びるわけではないと思いますが,なかなか興味深い話ではあります。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。