コントミン(クロルプロマジン塩酸塩)とはどんな薬?

コントミン(田辺三菱製薬、主成分クロルプロマジン塩酸塩)は、統合失調症の時に起こる、幻覚や異常な興奮、妄想や感情の鈍麻などの様々な症状を鎮めるための薬です。コントミンが発売されたのは1955年と50年以上前ですが、コントミンは統合失調症の治療薬として活躍しつづけてきました。

コントミンは、脳内のさまざまな神経伝達物質の働きを抑えることで、異常な精神活動を鎮める作用があります。ヒトの精神活動は、複雑な神経のネットワークによってなりたっているのですが、このネットワークを動かすのに必要な物質が神経伝達物質です。

神経伝達物質は、神経細胞と別の神経細胞を接続する役割を持つシナプスという部分で、神経間の信号伝達を行うために用いられます。シナプスの一方の神経細胞から神経伝達物質が放出されると、シナプスの中を通ってもう1つの神経細胞にたどり着き、神経細胞の表面の受容体というタンパク質に結合します。受容体に神経伝達物質が結合すると、受容体は活性化され、神経間の信号伝達に必要な神経細胞の興奮を引き起こすことが出来ます。

脳内にはいろんな神経伝達物質があり、その1つ1つに対応した受容体があります。その中でも、コントミンの統合失調症に対する治療効果に関係するのは、ドパミンと呼ばれる物質とドパミン受容体というタンパク質です。

ドパミンは、脳内の感情をコントロールする神経で働いており、ドパミンの働きが強くなりすぎると精神活動が異常に活性化することで幻覚や妄想などの症状がおこります。コントミンは、ドパミンがドパミン受容体に結合するのを防ぐことで、ドパミンの働きを押さえ込み、精神の異常な精神活動を止めることが出来ます。

このドパミンは、運動をコントロールする神経でも働いているので、コントミンを長いこと服用すると体が動かしにくくなったり、逆に体のいろいろな部分が、自分ではコントロールできない運動を起こしたりします。これらの症状は錐体外路症状と呼ばれており、コントミンを使用すると高い頻度で起こる副作用です。

この「錐体外路症状」をもたない統合失調症の治療薬の研究は、古くから行われています。その結果、現在では非定型型抗精神病薬と呼ばれるタイプの薬が使用されるようになりました。非定型型精神病薬は、ドパミンだけでなくセロトニンという神経伝達物質の働きを調節することで、統合失調症の症状を抑えつつ、ドパミンの作用を抑えすぎて錐体外路症状が起こることを防ぐことが出来ます。

そんな新薬の登場にもかかわらず、コントミンはまだまだ現役の薬としてがんばっています。こんな長生きな薬を作れるよう、私たち研究者はがんばりたいと思います。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


コントミン(クロルプロマジン塩酸塩)の構造式