アンカロン(サノフィ・アベンティス,主成分塩酸アミオダロン)は,心臓の拍動のリズムが乱れる不整脈と呼ばれる症状を治療,予防するための薬です。アンカロンは非常に優れた不整脈の治療効果を持つのですが重い副作用も持っています。そのため,アンカロンは,他の不整脈治療薬で効果がない患者さんにだけ,十分な注意の元に使われます。
アンカロンは,不整脈の中でも,心臓の拍動が早くなる「頻脈」と呼ばれる状態や,「頻脈」が激しくなり心臓の働きを果たさなくなる「心室細動」「心房細動」とよばれる状態の治療に使われます。アンカロンは,これらの状態でも,生命に危険があると判断された重篤な患者さんに使われます。
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心臓の拍動は,心臓の筋肉細胞(心筋細胞)の電気的な活動によって調節されています。心筋細胞の表面には,イオンチャネルと呼ばれるたんぱく質が存在します。イオンチャネルにはたくさんの種類があり,それぞれのイオンチャネルは特定のイオンを細胞の外から中,もしくは中から外へと選択的に通すトンネルとして働いています。
イオンは電気を帯びているので,イオンチャネルをイオンが通ると心筋細胞に電気的な活動がおこります。この電気活動が,心筋細胞の収縮を引き起こすカルシウムイオンというイオンの動きを制御して,心臓を収縮させているのです。
不整脈では,なんらかの原因でこの電気活動のリズムが乱れます。アンカロンは,イオンチャネルの中でもカリウムチャネルとよばれるチャネルに結合して,カリウムイオンが細胞の中から外へ通れないようにする働きがあります。
心筋細胞は,収縮したあと元の状態にもどるために弛緩する(緩まる)のですが,カリウムイオンは,この弛緩を引き起こすきっかけを作ります。頻脈の状態では,弛緩が早く起こるため,次の拍動までの間隔が短くなります。この間隔が短くなりすぎると,心臓はうまく収縮できなくなって,心室細動という状態におちいります。
アンカロンは,カリウムチャネルの働きをおさえ,心筋細胞の弛緩のタイミングを遅くすることで心臓の拍動を遅くし,心臓の働きを正常に保つのです。
アンカロンは,長期間服用すると間質性肺炎や肺繊維症という病気を引き起こすことがあります。また,アンカロンによって別の種類の不整脈が起こることもあります。これらの副作用は,死につながることもある重い副作用であることから,アンカロンは,不整脈治療の十分な経験のある熟練したお医者さんによって使用される必要があります。
アンカロンは,不整脈治療の最終兵器。すごい力を持っている武器は,使い方を誤ると,自分を傷つけてしまうものなのです。
[この記事を書いた人]
薬作り職人
国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。
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