グレースビット(第一三共,主成分シタフロキサン水和物)は,様々な細菌によって引き起こされる感染症の治療に用いられる薬です。グレーズビットは,ニューキノロン系抗菌薬と呼ばれるタイプの薬で、細菌を殺す作用を持っています。
グレーズビットを開発した第一三共では,ニューキノロン系抗菌薬である「タリビッド」や「クラビット」という薬を開発してきました。しかし、抗菌薬が持つ宿命「耐性菌の発生」という現象が近年認められるようになりました。なかでも,肺炎球菌(呼吸器や耳鼻科の感染症の原因となる菌)や,大腸菌(泌尿器系の感染症の原因となる菌)における耐性菌の発生は,臨床現場で問題になっています。
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グレーズビットは,このような「タリビッド」や「クラビット」に対して耐性を持つ細菌に対して効果を示す抗菌剤を目指して開発されました。グレーズビットが適用される感染症は,咽頭・喉頭炎、扁桃炎,急性気管支炎、肺炎、膀胱炎、腎盂腎炎、尿道炎,中耳炎、副鼻腔炎,歯周組織炎、歯冠周囲炎などであり、呼吸器、耳鼻科、泌尿器系にターゲットを絞っています。
グレーズビットは,細菌が持っているDNAジャイレースやトポイソメラーゼⅣという酵素たんぱく質の働きを止める作用があります。細菌が細胞分裂する際には,自分自身のDNAを複製(コピー)することが必要です。DNAジャイレースやトポイソメラーゼⅣはこの過程に必要不可欠な酵素です。そのため、グレースビットによってこれらの酵素の働きが阻害されると,細菌は細胞分裂できなくなり,最終的には死んでしまうのです。
「タリビッド」や「クラビット」に対する耐性菌では,DNAジャイレースやトポイソメラーゼⅣに突然変異が起こるために薬剤が効果を示せなくなるのですが,グレーズビットではこれらの耐性菌の酵素に対しても,きちんと効果を示すことができます。
もちろん、これからグレースビットに対する耐性菌ができる可能性はあるのですが、適切な使用法(むやみに使いすぎない)ことを守れば、耐性菌の発生を遅らせることはできます。「耐性菌ができたら対応する」ではなく、「できるだけ耐性菌を作り出さない」という姿勢を大事にするべきだと思います。
[この記事を書いた人]
薬作り職人
国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。
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