イナビル(ラニナミビルオクタン酸エステル水和物)とはどんな薬?

イナビル(第一三共、主成分ラニナミビルオクタン酸エステル水和物)は、2010年に発売開始されたインフルエンザ治療薬です。イナビルは、インフルエンザウイルスが持つノイラミニダーゼという酵素の働きを抑えて、インフルエンザウイルスの体内での感染拡大を防ぐ作用をもちます。インフルエンザウイルスが、感染細胞内で増殖したのち、細胞の外に出てくるためには、ノイラミニダーゼにより、細胞膜上に現れたウイルスと細胞膜が切り離される必要があります。ノイラミニダーゼ阻害作用をもつ薬物は、ウイルスが細胞膜から離れられなくすることで、ウイルスの他の細胞への感染を防ぎ、病状の進展を抑えます。

イナビルの作用メカニズムである「ノイラミニダーゼ阻害作用」は、現在頻用されているインフルエンザ治療薬「リレンザ」「タミフル」と同じです。「リレンザ」はグラクソ・スミスクライン、「タミフル」はロシュと、いずれも海外の製薬会社で開発された。これに対し、イナビルは、最初から国内の製薬会社で開発された、国産初のノイラミニダーゼ阻害薬となります(塩野義製薬のラピアクタは、海外企業からの導入品でした)。

イナビルは、リレンザと同じ吸入薬です。吸入容器を使って、口から薬剤を吸い込みます。吸った息によって、薬をインフルエンザウイルスがいる気道や肺に到達させます。

イナビルの主成分である「ラニナミビルオクタン酸エステル水和物」は、気道や肺の細胞の酵素によって代謝され、ラニナミビルという化合物に変わります。このラニナミビルが、ノイラミニダーゼ阻害作用を示します。イナビルのように、代謝されることで薬としての作用を示す薬をプロドラッグと呼んでいます。

ラニナミビルは、肺や気管の中にとどまりやすく、一度の投与で、肺の中に必要な量の薬を届けることが出来ます。肺の中に薬が4日間くらい残るので、追加の薬が必要がないのです。

リレンザやタミフルは、何回も服用する必要があります。子どもに多いインフルエンザでは、リレンザのような吸入剤を何度も子どもに服用させるのは大変です。また、タミフルでは、ドライシロップ剤にして飲みやすくする工夫はされていますが、それでも、子どもに何回も薬を飲んでもらうのは難しいものです。

というわけで、一回で速やかに効果を示すイナビルは非常に使いやすい薬だと言えます。作用自体は、タミフルやリレンザと同程度ですが、そこに使いやすさという新たな利点を加えたのがイナビルだと言えます。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


イナビル(ラニナミビルオクタン酸エステル水和物)の構造式