アクレフ(フェンタニルクエン酸塩)とはどんな薬?

アクレフ(田辺三菱製薬、主成分 フェンタニルクエン酸塩)は、がんの患者さんに起こる強い痛みを速やかに止めるために用いられる鎮痛薬です。アクレフは、口の中の粘膜に貼りつけて服薬する「口腔粘膜吸収剤」というタイプの薬剤であり、非常に早い時間での鎮痛効果を引き出すことができます。

がんの患者さんの悩みの一つに、がん性疼痛という痛みがあります。特に、増殖したがんが、体内の臓器や神経を物理的に圧迫することで起こる痛みというのは非常に強い痛みです。

アクレフの主成分であるフェンタニルは、非常に強い鎮痛効果を示す薬剤です。フェンタニルは、強い鎮痛作用が知られているモルヒネと同じ「オピオイド」というカテゴリーに分類されます。がん性疼痛のような強い痛みについては、これらオピオイドによって痛みを抑えることが必要になります。

がん性疼痛では、突然強い痛みが起こることがあり(突出痛)、これらの痛みには即効性がある薬剤が必要です。アクレフは、薬剤部分を頬と歯茎のあいだにはさんで薬剤を溶かし、口の粘膜から血液に直接フェンタニルを吸収させます。口の粘膜から吸収させる、というのは、ニトログリセリンの舌下錠とに似たようなアプローチですね。

フェンタニルは、飲み薬と貼り薬がすでに用いられていますが、アクレフはこれにさらにあたらしい服用経路の選択肢をつくりました。アクレフは口からすみやかに吸収されることから、通常の服用で抑えきれない強い突出痛が現れたときにすぐ追加服用して使用します。アクレフのような使用法は、レスキュードーズと呼ばれています。

さて、アクレフの主成分であるフェンタニルの作用メカニズムを見てみましょう。

フェンタニルやモルヒネは、痛み伝達をになう神経経路のなかのシナプスという部分に作用します。

シナプスは、神経細胞と別の神経細胞の間の信号伝達を担当します。痛みによって引き起こされた神経の電気活動(活動電位)は、シナプスを構成する細胞(シナプス前細胞)に達すると、シナプス前細胞から神経伝達物質という化学物質を放出させます。この神経伝達物質が、シナプスを構成するもうひとつの細胞(シナプス後細胞)の表面の受容体というタンパ室に結合すると、シナプス後細胞に電気信号が発生します。すなわち、シナプスでは、化学物質の放出を介して、神経から神経へ、電気信号の受け渡しをしています。

さて、フェンタニルやモルヒネは、シナプス前細胞にあるタンパク質「μオピオイド受容体」に結合し、これを活性化させる働きがあります。すると、シナプス前細胞からの神経伝達物質の放出は止まります。そのため、痛みの電気信号がシナプスの段階で止まってしまい、痛みを感じなくなるのです。この鎮痛作用は非常に強力です。

アクレフは、法律で麻薬として指定されているのですが、使用法をきちんと守ることで、がん性疼痛の治療には恩恵を与えるものと考えられます。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


アクレフ(フェンタニルクエン酸塩)の構造式