ジレニア(フィンゴリモド塩酸塩)とはどんな薬?

ジレニア(ノバルティス、主成分 フィンゴリモド塩酸塩)とは、多発性硬化症の再発予防、進行抑制に用いられる薬です。

多発性硬化症は、脳や脊髄、視神経などに炎症が生じて、これらの神経の働きが低下する病気です。具体的には、運動麻痺、神経障害、視力障害、などの症状が、悪化と回復(再発と寛解)を繰り返します。この神経症状は、「脱髄」という現象によって起こります。脱髄とは、神経細胞の表面を覆っている髄鞘(ずいしょう)が、免疫反応の結果として起る炎症により破壊されてしまう現象です。

脱髄を引き起こす免疫反応は、主にリンパ球という細胞によって引き起こされます。リンパ球は、もともとは体内のリンパ節という臓器で免疫反応のきっかけを待ち構えており、なんらかのきっかけでリンパ球から出て神経細胞に向かって移動します。

ジレニアは、このリンパ球に作用し、リンパ球をリンパ節から出れなくさせて神経での免疫反応を抑えます。リンパ球がリンパ節を出るには、リンパ球の表面のスフィンゴシン 1-リン酸受容体(S1P受容体)を活性化する必要があります。ジレニアは、S1P受容体に結合し、S1P受容体をリンパ球の表面からなくしてしまう作用をもっています。そのため、ジレニアを服用するとリンパ球がリンパ節から出れなくなり、神経での免疫反応も弱まるのです。

これまで、多発性硬化症の治療薬としてはインターフェロンβという薬が用いられてきました。しかし、インターフェロンβは注射薬で、一日おきの皮下注射が必要でした。一方、ジレニアは、インターフェロンβとは異なり、一日一回服用のカプセル剤です。注射剤と飲み薬では、患者さんにとっての使いやすさが全く違うことは明らかでしょう。ただし、使いやすいとはいえ、ジレニアの服用により重篤な感染症(免疫機能の低下によるもの)、黄斑浮腫(目の副作用)などが起こることが報告されています。そのため、ジレニアの使用には専門医の指導と十分な注意が必要です。

多発性硬化症の治療薬の開発は困難とされてきましたが、長年の研究の結果、ようやく使いやすい薬が登場しました。ジレニアに続く薬剤も、様々な製薬会社で開発されています。これらの薬剤が登場する日も遠くはないのではないかと思います。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


ジレニア(フィンゴリモド塩酸塩)の構造式