サインバルタ(デュロキセチン塩酸塩)とはどんな薬?

サインバルタ(塩野義製薬、主成分 デュロキセチン塩酸塩)は、うつ病の治療に用いられる薬です。また、2012年には、糖尿病によっておこる痛みの治療についてもサインバルタの効能が承認されました。そのため、サインバルタを痛みに対する治療にも用いることができるようになります。

サインバルタは、脳における神経伝達に関与する分子「セロトニントランスポーター」と「ノルアドレナリントランスポーター」の働きを低下させる作用を持っています。そのため、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)と呼ばれています。

セロトニンとノルアドレナリンは、神経間の情報伝達に関与する分子で「神経伝達物質」と呼ばれています。神経細胞の脳内でのネットワークは、シナプスという構造によって構成されています。このシナプスは、シナプス前細胞とシナプス後細胞という2種類の神経細胞が組み合わさって出来ています。神経伝達物質は、シナプス前細胞から放出され、シナプス後細胞に結合することでシナプス後細胞の機能を調節(活性化)します。これが、脳における神経伝達の正体です。

シナプス前細胞から放出された神経伝達物質は、シナプス前細胞の表面にあるトランスポーターによってシナプス前細胞に回収されます。この神経伝達物質により、シナプスにおける神経伝達は終了します。サインバルタは、このトランスポーターの働きを阻害するので、シナプスにおける神経伝達物質(サインバルタの場合、セロトニンとノルアドレナリン)の量が増加することになります。サインバルタは、神経伝達物質の量が増加させ、シナプス後細胞の機能を変化させることで抗うつ作用を示すと考えられます。

古くから使われているトフラニール(主成分イミプラミン)なども、サインバルタと同様に線形伝達物質のトランスポーターを阻害して神経伝達物質を増加作用を持つ薬剤です。ただし、トフラニールなどの古い薬剤は、生体内の様々なタンパク質(受容体)に同時に作用することで、口の渇きや眠気、便秘などの副作用を生じます。主作用は強力なのですが、副作用もまた多いということです。サインバルタは、トフラニールなどで見られた副作用を減らすために、「セロトニントランスポーター」と「ノルアドレナリントランスポーター」に選択的に作用するよう設計されています。

トフラニールなどの抗うつ薬には、痛みを抑える作用があることが知られていました。そのため、サインバルタについても「痛み」に対する作用があると考えられました。そのため、糖尿病患者に対する臨床試験が行われ、臨床試験によって、サインバルタは糖尿病による痛みへの効果があることが確認されました。現在では、糖尿病による痛みに対する治療薬は少なく、サインバルタは痛み治療の選択肢を増やす重要な薬になると考えられます。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


サインバルタ(デュロキセチン塩酸塩)の構造式