SAR表を作ろうー合成展開

ようやく新薬開発の原点となるリード化合物が決まりました。(リード化合物ー>数百万個の化合物から選ばれた、薬作りのスタートとなる化合物)ここから先は、合成屋と薬理屋の共同作業が始まります。

まず合成屋さんはリード化合物の構造の一部を変えた化合物をどんどん合成します。具体的には、リード化合物に他のパーツ(官能基とか側鎖とか呼びます)をくっつける、リード化合物中のパーツを似たようなパーツに入れ替える、などなど。構造式をよく見比べないと気がつかないようなわずかな違いを持つ化合物(誘導体とか周辺化合物とかいいます)をこれでもかこれでもかと合成します。最近はコンビナトリアル合成(コンビ合成)という手法もあり、コンビナトリアル合成では、一回の反応でリード化合物から数十個の誘導体ができたりもします。そのようにしてできた化合物の薬理活性を薬理屋が評価することになります。

薬理屋は、まずはタンパク質、細胞を用いて効果を調べます。ランダムスクリーニングのときの実験よりは、精度の高い丁寧な実験を行い、わずかな活性の差を検出するように気をつけます。指標としては50%阻害濃度(IC50値)や最大活性値などを用います。

で、薬理活性の評価が終わると、構造活性相関表(SAR表 Structure-Activity-Relationshipの略)という表を作ります。リード化合物の誘導体の構造式をずらっと並べ、構造式の横に、各誘導体の薬理活性を並べます。構造と薬理活性を見比べると、ある構造ではリード化合物より薬理活性が上がり、ある構造ではリード化合物より薬理活性が下がることが分かります。薬物の構造により薬理活性が変わってくる訳で、その相関をまとめたものがSAR表です。

合成屋さんは、SAR表をにらみながら、リード化合物のなかのどの構造が薬理活性上昇に繋がるのかを推測します。そして、薬理活性に関係する部位について、更に変化を加えた誘導体を合成します。それを薬理屋が評価して、SAR表を作り、それを見た合成屋さんが、、、の繰り返しです。

薬理屋は、今日の化合物の薬理活性はどうだろう?と楽しみにしながら実験をしています。いつ大当たりが出るか、ドキドキします。最初はなかなか薬理活性は上がらないんですが、大抵は突然に薬理活性が高い化合物が出てきます。

ここまでは、ある程度運が絡んでくるんですが、一度薬理活性が上がるとSAR表が生きてきます。ある程度理詰めでの誘導体合成ができるようになり、ぐいぐいと薬理活性が上がっていきます。どのくらい薬理活性が上がるかというと、リード化合物よりも100倍から1000倍薄い濃度で薬理活性をしめすようになります。

ある程度薬理活性が上がると、またドングリの背比べ状態になってきます。ここから先は、薬理活性以外の点でのふるい分けが始まります。以前挙げた「リード化合物の弱点」を指標にしたふるい分けなどなど、まだまだハードルは高いんですが、それはまた次回。