パナルジン(チクロピジン塩酸塩)とはどんな薬?

パナルジン(サノフィ・アベンティス、主成分チクロピジン塩酸塩)は、血液が固まって血管が詰まるのを防ぐための薬です。血液は血小板という血液細胞が集まって(凝集して)固まるのですが、パナルジンは、この血小板の凝集を防ぐことで、血液を固まりにくくします。

パナルジンは、血液が固まりやすい状態にある患者さん、例えば脳梗塞を起こした患者さんやくも膜下出血の発作を起こした患者さんに対して使われます。脳梗塞では、脳の血管の中で血液が固まって、脳に栄養や酸素を与える血管を防ぎ、神経細胞に障害を与えます。パナルジンは、血液が固まるのを防ぐことで、脳梗塞の発作が再発しないようにすることができます。

パナルジンは、血小板が凝集するために必要なシグナルをとめることで、血小板の凝集を防ぎます。血小板が凝集するには、ADPと呼ばれる生体内の物質による合図が必要です。ADPは血小板の表面にあるP2Y1受容体、P2Y12受容体と呼ばれるタンパク質に結合して、これらのタンパク質を活性化することで、血小板を凝集させるためのシグナルを出します。パナルジンは、血小板に結合して、このP2Y1受容体、P2Y12受容体の活性化を防ぐことで、血小板凝集を防ぐ作用を示します。

実は、パナルジンの主成分であるチクロピジン塩酸塩は血小板の凝集を抑える作用を持ちません。チクロピジン塩酸塩を直接血液にかけても作用は現れず、動物にチクロピジン塩酸塩を飲ませた後に取り出した血液中でのみ、血小板の凝集作用が認められるのです。このような効き方をするパナルジンのような薬をプロドラッグとよんでいます。

パナルジンを服用して小腸から吸収されたチクロピジン塩酸塩は、肝臓のなかで様々な酵素により構造が変化します(代謝を受けるといいます)。そして、チクロピジン塩酸塩が代謝をうけてできた化合物が、初めてパナルジンとしての作用をしめすのです。では、その代謝を受けてできた化合物(活性代謝物)は、どのような物質なのか?ということになるのですが、これが現在のところわかっていません。パナルジンの活性代謝物は、体内ですぐ分解されてしまうために、正体を突き止めることができないのです。不思議なものですね。

パナルジンには重大な副作用があるので、服用には気をつけなくてはいけません。パナルジンを投与された患者さんには、血栓性血小板減少性紫斑病という病気が起こったり、顆粒球という血球成分が減少したり、肝臓の機能が重大な障害を起こしたりします。血栓性血小板減少性紫斑病は、血液に異常を生じる病気で、死につながることもある重大な病気です。このため、パナルジンを服用する人は、定期的に血液検査と肝臓の検査を受けなくてはいけません。

それでも、パナルジンの効果は非常に優れているために、パナルジンは現在でも広く使われています。しかし、近年、パナルジンを改良したプラビックスという薬が使えるようになりました。プラビックスはパナルジンとくらべ、安全性が高いといわれています。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


パナルジン(チクロピジン塩酸塩)の構造式