ホスミシン(ホスホマイシン)とはどんな薬?

ホスミシン(明治製菓,主成分ホスホマイシン)は,細菌が感染して起こる膀胱炎や腸炎,中耳炎や麦粒腫(ものもらい,めばちこ)などの感染症の治療に用いられる薬です。

ホスミシンの有効成分であるホスホマイシンは,スペインの土の中から発見された微生物の培養液から見つかった抗生物質で,大腸菌,赤痢菌,サルモネラ菌,ブドウ球菌,緑膿菌などの様々な微生物に対して殺菌作用を示します。

ホスミシンは細菌の細胞の中に取り込まれて,細菌の形を形づくる細胞壁の材料を合成する働きをもつ酵素タンパク質(Enolpyruvate transferase)の働きを止める働きを持っています。ホスミシンの構造は,Enolpyruvate transferaseの酵素反応の材料となるホスホエノールピルビン酸の構造に似ています。そのため,ホスミシンはEnolpyruvate transferaseの酵素反応が起こる部分にうまく入り込んで,この酵素反応の邪魔をしてしまうのです。ホスミシンによって細胞壁の材料が作れなくなった細菌は,細胞壁がよわくなり,細胞の内外の圧力差に耐えることができなくなって,破裂して死んでしまいます。これがホスミシンの作用メカニズムです。

ホスミシン(ホスホマイシン)の構造式

ホスミシンは三角形の輪のまわりにひげが生えたようなシンプルな構造をしています。世の中で用いられている抗生物質の多くは,微生物の細胞内で,いろいろな生化学反応を経て作られるので,もっとゴジャゴジャした複雑な構造をしているのが普通です。ホスミシンは抗生物質の中でも変り種の構造をしているので,他の抗生物質が効果を示さない耐性菌にも殺菌作用を示すことができます。

もちろん細菌もただだまってホスミシンにやられるばかりではありません。ホスミシンに対して耐性をもつ細菌も,もちろん出現するようになりました。ホスミシンが細菌の細胞の中に入るときには,トランスポーターというタンパク質を用いるのですが,このトランスポーターの構造が突然変異によって変化すると,ホスミシンがトランスポーターを使えなくなってしまいます。そうなると,ホスミシンはターゲットである細胞内の酵素までたどり着けないので,殺菌効果が示せなくなるのです

変幻自在な細菌と抗生物質の知恵比べ,なかなか勝負はつきそうにありませんね。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。