ベタニス(ミラベグロン)とはどんな薬?

ベタニス(アステラス製薬、主成分 ミラベグロン)は、過活動膀胱の治療に用いられる薬です。ベタニスが使用される過活動膀胱という病気は、何らかの原因により膀胱平滑筋(膀胱を形作る筋肉で、収縮すると尿を排泄し、弛緩すると尿をためる働きを持つ)の活動が激しくなる状態です。

過活動膀胱では、膀胱が収縮しやすくなるため、おしっこが急にしたくてたまらなくなる「尿意切迫感」やトイレに間に合わず尿が漏れてしまう「切迫性尿失禁」などの状態が起こります。ベタニスは、過活動膀胱状態の膀胱平滑筋を弛緩させ、尿を膀胱にたまりやすくすることでこれらの症状を抑えます。

ベタニスは、世界で初めて承認されたβ3アゴニストです。過活動膀胱は、高齢者に起こりやすい病気であり、(今後患者が多くなるであろう)日本において開発が進むというのも頷けるところです。

ベタニスは、膀胱平滑筋の表面にあるβ3アドレナリン受容体というタンパク質に結合し、これを活性化させる作用を持ちます。ベタニスのような性質をもつ薬剤を、β3アゴニストと呼びます。ベタニスがβ3アドレナリン受容体に結合すると、細胞表面の様々なタンパク質を活性化させます。その結果、細胞内に「膀胱平滑筋を弛緩させる」ためのシグナルが発生するのです。

もともと、β3アドレナリン受容体は、脂肪組織における作用が注目されていました。脂肪消費を高めて体重を減らすのでは、とか、糖尿病患者の糖の代謝を更新して病状を改善するのではないか、という使い方が期待され、様々なβ3アゴニストが開発されました。しかし、これらのβ3アゴニストは、最終的には承認というゴールにまではたどり着けませんでした。

そんな中、β3アゴニストと膀胱とのつながりが発見されました。普通、実験に用いられている動物の膀胱にはβ3アドレナリン受容体はあまり存在しません。ところが、ヒトの膀胱ではβ3アドレナリン受容体が非常に多く存在し、しかも膀胱平滑筋の弛緩に関与することが示されたのです。この発見を契機に、β3アゴニストを過活動膀胱治療薬として開発しようとする動きが高まり、最終的にゴールに辿り着いたのがベタニスなのです。

過活動膀胱でおこる症状は、命に関わる重い症状ではありません。しかし自分の身になって考えて見ると、トイレに行きたくてたまらない、トイレに行かざるをえない状況というのは、社会生活を営むためには大きな障害となるものです。

これまでの過活動膀胱治療薬では抗コリン薬という種類の薬が多く使われてきました。ベタニスは、これらの抗コリン薬にくらべ副作用が少ないという特徴があります。抗コリン薬を服用すると、口の渇き、便秘、目のかすみ、などの副作用が起こることが知られています。抗コリン薬の副作用は、抗コリン薬の作用メカニズム(ムスカリン受容体というタンパク質の抑制)にもとづいて起こります。つまり、ムスカリン受容体が副作用を及ぼす臓器において様々な働きをすることが、副作用の原因です。ベタニスは、抗コリン薬とは作用メカニズムが全く異なる薬です。そのため、ベタニスでは、これまでに見られた抗コリン薬の副作用は低減されています。

また、過活動膀胱においては、抗コリン薬が効きづらい症例も存在します。これらの患者さんにとっては、抗コリン薬以外のメカニズムを持つ薬剤を用意することが必要です。ベタニスは、これらの目的に沿うものです。また、ベタニスさえあれば大丈夫なのかいう点についても答えは出ていません。ベタニスにつづく新しいメカニズムの薬剤の開発も望まれるところです。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


ベタニス(ミラベグロン)の構造式