ザイザル(レボセチリジン塩酸塩)とはどんな薬?

ザイザル(グラクソ・スミスクライン、主成分レボセチリジン塩酸塩)は、アレルギー症状を抑えるために用いられる薬です。ザイザルの効能として示されている病気としては、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹(じんましん)、湿疹・皮膚炎、皮膚のかゆみ等が挙げられます。この中でも、私達にとって身近なザイザルの使い道は(花粉症に伴う)アレルギー性鼻炎の治療でしょう。

ザイザルは、アレルギーにおける炎症を引き起こす原因物質「ヒスタミン」の作用を抑える作用を持っています。

アレルギー反応が生じると、生体内の免疫細胞の一種である肥満細胞(マスト細胞)からヒスタミンが放出されます。このヒスタミンは、鼻や皮膚に存在するヒスタミンH1受容体(H1受容体)というタンパク質に結合してH1受容体を活性化させ、これが鼻水やかゆみを引き起こします。ザイザルは、H1受容体に強く結合する性質をもっています。ザイザルが存在するとヒスタミンはH1受容体に結合できないので、ヒスタミンによる鼻水やかゆみはとまる、というわけです。ザイザルのような薬物を抗ヒスタミン薬とよんでいます。

このザイザルは、抗ヒスタミン薬であるジルテック(グラクソ・スミスクライン、主成分セチリジン塩酸塩)を改良して作られた薬です。ジルテックの主成分であるセチリジンは、ザイザルの主成分であるレボセチリジンとデキストロセチリジンという、2つの化合物の混合物です。

レボセチリジンとデキストロセチリジンは、光学異性という関係にある化合物です。簡単に言うと光学異性の関係にある化合物(光学異性体と呼びます)は「手袋の右と左」の関係にあります。一見、見た目はそっくりのように見えますが、光学異性体同士はぴったり重ねあう事ができません。つまり立体的に見ると全くの別物なのです。

有機化学反応を用いて薬を合成する場合、光学異性の関係にある2つの化合物が出来上がることはよくあります。しかし、複数の光学異性体を一つ一つに分ける作業(光学分割)や特定の光学異性体だけを合成する方法(不斉合成)は、非常に難しかったり、コストがかかったりします。したがって、薬の開発においては、光学異性体を分けることなくそのまま製品としてしまうことも多くあります。ジルテックは、そのような薬でした。

しかし、レボセチリジンとデキストロセチリジンの場合、レボセチリジンのほうが抗ヒスタミン薬としての作用は強く、かつ効果の持続性があることは知られていました。それなら、レボセチリジンの方をだけを取り出してやればよい、と考えるのは自然なことでしょう。ジルテックが売りだされて10年ほど経って、レボセチリジンのみを含むザイザルが開発・販売されました。

このように、光学異性体の混合物だった薬物から、特定の光学異性体のみを取り出して新しい薬にするという手法は、ザイザル以外の薬でも行われています。一般的に、服薬量が少なくてすんだり(活性が高い方の光学異性体のみを使うので)効果が長くなったりと、薬としての性質が良くなることが知られています。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


ザイザル(レボセチリジン塩酸塩)の構造式