ミルセラ(エポエチン ベータ ペゴル)とはどんな薬?

ミルセラ(中外製薬、主成分 エポエチン ベータ ペゴル)は、腎性貧血の治療薬です。腎性貧血とは、慢性の腎臓病によって腎臓の機能が低下することで生じる貧血です。腎性貧血は慢性腎臓病の進行に伴って発症し、人工透析(血液透析、腹膜透析)が必要な患者さんで多く認められます。ミルセラは、慢性腎臓病による腎性貧血の患者さんに投与され、貧血の原因である赤血球の低下を回復させます。

腎性貧血の時には、腎臓で作られるエリスロポエチンというホルモンの産生量が低下します。ミルセラは、このエリスロポエチンと同じ働きを持つタンパク質で、エリスロポエチンの働きを補充する役割を持ちます。

エリスロポエチンは、生体内で赤血球(酸素を運搬する働きをする血球)の産生を高める作用を持っています。ところが、慢性腎臓病では、腎臓の細胞の働きが低下して、腎臓からのエリスロポエチン産生量が低下します。すると、赤血球の産生量が低下して血液の酸素運搬能力が低下してしまいます。すると、貧血症状が現れるというわけです。ミルセラは、エリスロポエチンと同じく赤血球産生を更新させる働きをもち、赤血球量を増やすことで腎性貧血を改善します。

これまで、腎性貧血の治療には、エポジン(中外製薬、主成分 エポエチン ベータ)などの薬剤が用いられてきました。エポジンもミルセラと同じく、エリスロポエチンと同じ働きを持つ薬剤です、エポジンとミルセラの一番大きな違いは、薬剤を投与する間隔です。

エポジンもミルセラも注射によって投与します。注射をどれくらいの頻度ですれば良いのかというのは、患者さんにとって重要な問題です。エポジンは1週間に2-3回の投与が必要なのに対し、ミルセラは2週間(初回)から4週間(維持)に1回の投与で済みます。この点で、ミルセラは非常に使いやすい薬だといえます。

ミルセラの投与の頻度がこれ程少なくて済むのは、ミルセラが体内にきわめて長い時間残存できるからです。これは、ミルセラの構造に含まれる「直鎖メトキシポリエチレングリコール(mPEG)」が原因です。

実は、ミルセラはエポジンの主成分エポエチン ベータに、mPEGを結合させた薬です。mPEGを結合させるとエポエチン ベータの分子の大きさが大きくなることで、全身の組織に分布しにくくなり、エポジンに比べ血液中に長くとどまることができます。また、エポエチン ベータはタンパク質なので、エポエチン ベータに対する抗体ができることによりエポジンの作用が低下するという問題があります。しかし、mPEGをつけることで、抗体ができにくくなり、作用低下が起きにくくなっています。

腎性貧血の薬は長期的に服用する薬なので、できるだけ使いやすいことが求められます。その点でミルセラは優れた薬です。また、ミルセラとは異なるメカニズムで投与間隔を長くしたネスプ(協和発酵キリン、主成分 ダルベポエチンアルファ、週1回から2週間に1回投与)という薬も使われるようになりました。

ただ、投与間隔がながければ長いほど使いやすいといいますがが、これ以上長くなると、薬剤量のコントロールが難しくなる(何かあっても、変更(特に減量)がきかない)ということも起こりえます。ミルセラくらいの投与間隔が限界ではないのかな、と個人的には思います。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


ミルセラ(エポエチン ベータ ペゴル) の構造式