キックリン(ビキサロマー)とはどんな薬?

キックリン(アステラス製薬、主成分 ビキサロマー)は、人工透析をうけている慢性腎不全患者さんの高リン酸血症を改善する効能をもつ薬です。高リン酸血症とは、血液中のリンの量が増加する状態です。キックリンは、食物中に含まれるリン酸と結合する性質を持っています。キックリンとリン酸が結合すると、リン酸は体内に吸収されなくなります。したがって、血液中のリン酸が減って、高リン酸血症が改善されるというわけです。

リンは、骨や核酸の構成成分として用いられています。そのため、体内でのリンの量のコントロールは大事です。リンの体内への吸収は、食事に含まれるリン酸が腸から吸収されることでおこります。また、リンの体外への排出は腎臓から尿によって行われます。

腎機能が低下した患者さん(慢性腎不全患者)、とくに尿の生成が全くできなくなり人工透析が必要になった患者さんの場合、尿を介したリン酸の排泄ができなくなります。つまり、人工透析中の慢性腎不全患者さんでは、食物由来のリン酸がどんどん吸収され、腎臓からリンを排出することができなくなります。そのため、血液中のリンの量はどんどん増えていきます。キックリンは、腸管からのリン酸の吸収を防ぐことで、リン酸の排泄機構が働かなくてもリンの量が上昇させなくするのです。

高リン酸血症が長い期間続くと、体に様々な異常が起こります。たとえば、血液中のリンの濃度が高くなると血液中とのカルシウムとの結合によりリン酸カルシウムという物質ができます。このリン酸カルシウムは水に溶けず、血管や心臓の弁、関節、腎臓などにベタベタくっつきます。このくっついたリン酸カルシウム(異所性石灰化といいます)は、血管をつまらせたり弱めたりすることで、心臓疾患(冠動脈疾患)などが発症する可能性を上昇させます。また、高リン酸血症は体内のカルシウム量のバランスを乱し、骨からのカルシウムの流出による骨の強度低下、骨痛、骨折などを引き起こします。

キックリンは、血液中のリンの量を減らすことで、高リン酸血症によって引き起こされるこれら様々な異常を改善することができます。

キックリンは、アミン機能性ポリマーと呼ばれる物質で、「陽性荷電状態のアミノ酸」をたくさん持っています。キックリンは、非常に沢山の小さなパーツ(陽性荷電状態のアミノ酸をもつ化合物)が化学結合してひとつの分子となる、ポリマーとよばれる形態をとっています。ポリマーは非常に大きな分子なので、腸から体内に吸収されることはありません。したがって、キックリンに結合したリンは、キックリンとともに便によって体外に放出されます。

このようにキックリンは体内のリンの量を調節する作用を示しますが、キックリンだけで体内のリンの量を完全にコントロールすることはできません。食事療法などで、キックリンの効果をバックアップすることも必要になります。また、定期的な検査により、血液流のリン、カルシウムなどの量がコントロールされているかを確認する必要があります。

お腹の中に入ったキックリンが水を含んだリン酸を吸収すると、お腹の中でふやけて嵩が増しそうなイメージがあります。しかし、キックリンは水を吸収する能力が低いので、そのようなことは起こりません。これに対し、キックリン以前に用いられていた薬(レナジェル、主成分セベラマー塩酸塩)は、水分を吸収することで体積が増加します。そのため、レナジェルには、便秘や腹痛、腹部の膨満感などの副作用が見られました。水の吸収力の違いから、キックリンにはレナジェルのような副作用は起こりにくいとされています。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。