弱点を探せ 化合物の特徴づけ

数百万個の化合物から、様々な行程を経て10個程度に絞られた化合物は、いずれも同じ薬理作用を持ち、ターゲットに対して選択的に効くことが確認できています。

ここから先は、化合物の弱点を探して、一番弱点が少ないものを選び出すことになります。どの化合物もある程度の弱点は持ちますが、その弱点は、これからの化合物合成により構造を変えていくことで克服します。

ヒット化合物の代表的な弱点をあげると、こんな感じです。

1)溶けない(溶解性が低い): 水もしくは人に投与可能な液体に溶けるか?ということ。特に注射剤を作る際には必須の条件です。残念なことに、新薬の元になる化合物は、水に溶けないものが多いです。私たちが実験につかうときは、有機溶媒(人には投与できない液)に一度溶かし、それを水で薄めたりしますが、実際臨床で使う際はそういう訳にはいきません。合成によって水に溶けるような構造に変えていくことになります。

2)特許がある:世の中、薬に適した化合物の形(パターン)がどうもあるみたいで、せっかく見つけた化合物も、他の会社の特許が既に出されている場合は使えません(結構あります)。これは、合成により化合物の形を変えて、特許に引っかからなくしなければいけません。

3)毒性がある:いくら効く化合物でも、毒性があっては意味がありません。ただ、毒性の原因がはっきりしているときは、その毒性についてのチェックを行いながら化合物を合成していくことになります。最近注目されているのは、HERG(ハーグ)というタンパク質の働きを抑制することで生ずる毒性です。HERGの働きを抑制すると不整脈、つまり心拍のリズムが乱れ、死に至ることが最近報告されています。実は、このタンパク質HERGの働きを抑制する化合物は結構あるので、出来るだけ最初の段階で、HERG阻害活性がある/ないを確認することが、今後合成をしていく上で大切です。

4)合成しにくい:似たようなキャラクターの化合物が多いときは、構造を変えにくい化合物を避けることが多いみたいです(あくまで薬理屋からみたイメージですが)。

まだまだいろいろあるんですが、とにかくこれらの弱点を捕まえた上で、これからの合成の出発点となる化合物を選びます。これをリード化合物と呼びます。リード化合物は構造パターンの違いから、数化合物が選ばれることが多いです。

これからが、リード化合物をもとにした化合物合成の開始。合成屋と薬理屋の出番です。キーワードは、SAR(構造活性相関)。次回でお話しします。