リード化合物がきまり、合成展開が進んで、薬理作用がある化合物が出てくると、次は動物試験のため、動物に化合物に投与することになります。
動物に化合物を投与し、その化合物が体の中に入ったことを証明するには、化合物投与後に動物の血液を採血し、血液中(正確には血漿中)での化合物の濃度を測定する必要があります。これらの実験は、動態屋さん(薬物動態専門の研究者)が担当してくれます。
動物へ薬を投与する方法には、静脈内投与(静脈注射や点滴)、経口投与(飲み薬)、皮下投与、腹腔内投与などがありますが、一般的に用いられる方法は、静脈内投与と経口投与です。どちらの投与にも、クリアしなければならない関門があります。そこで、今回は2回に分け、1回目で静脈内投与、2回目で経口投与を紹介します。
静脈内投与は、化合物を液体(生理食塩水、生理食塩水などで希釈した有機溶媒、界面活性剤(Tween80)、ポリエチレングリコール(PEG)、弱酸、などなど)に溶かして、ラット、マウスの場合はしっぽの血管もしくは足の甲から、モルモットの場合は、しっぽがないので足の甲の血管から投与します。ウサギは耳の血管から、イヌは足の血管からそれぞれ投与します。点滴をする場合には、ももの部分を切開して大腿静脈を露出し、カニューレ(プラスチック製の細いチューブ)を挿入し、そこから投与します。注射針、シリンジは、ヒトで使うものと同じですが(テルモとかの医療用器具)、大きさは動物によって異なります。
静脈内投与の利点は、確実に血液中に薬を入れることができることです。化合物は速やかに全身に行き渡り作用を示します。このときの血中濃度推移を検討することで、化合物がどのくらい末梢組織に分布するのか(こうして求められた、末梢分布の指標を分布容積といいます)とか計算することができます。
また、急性に効くタイプの薬剤をスクリーニングするときは、静脈内投与が用いられます。例えば、カルシウム拮抗薬やアンギオテンシン2受容体拮抗薬などの血圧降下剤では、薬を投与しながら血圧をモニターすると、薬剤の静脈投与と同時に、血圧が速やかに下がります。
また、静脈内投与では、人の場合と同様に化合物を点滴することも可能です。点滴することで、薬の血中濃度を一定にコントロールすることができ、各血中濃度での化合物の作用を評価することが可能です。
静脈内投与の弱点は、化合物が完全に溶けている必要があることです。溶けていない場合、脳や肺や心臓の血管に詰まって、動物が死ぬことがあるからです。この、化合物を溶かすという所が一番難しく、何に溶かすかをきめるのは経験が物を言います(一応、何種類かの処方があるんですが、うまく行くとは限りません)。
あと、投与にはある程度訓練が必要で、新入社員はいつもここで苦労します。が、なれれば、同じ動物のしっぽにに2,3回くらい投与するのは何とかなります。ただ、マウスのしっぽに2週間以上(14回以上)静脈内投与をし続けるのは相当の修行が必要です。
「確実に薬理作用が見れるが、投与するのが難しい」のが静脈内投与とすれば、「簡単だけど、薬剤を効かせるのが難しい」が経口投与です。新薬開発の難関の一つが、経口投与で効く化合物を作ることです。この続きはまた次回。
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