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T-705

T-705(富山化学)は、タミフル、リレンザに続く、次世代のインフルエンザ治療薬として、現在臨床試験が行われている化合物です。T-705は、タミフルやリレンザと同様、動物試験では、高い治療効果を認めています。そして、T-705は、これまでのインフルエンザウイルスだけでなく、新型トリインフルエンザウイルスに対しても効果を示すという結果が得られています。

T-705は、インフルエンザウイルスの増殖に関与するタンパク質、RNAポリメレースと言うタンパク質の働きを抑制して、インフルエンザウイルスを殺します。エイズやC型肝炎などのウイルス性疾患の治療薬では、RNAポリメレースの阻害作用というメカニズムは、既に用いられているのですが、ようやくインフルエンザウイルスについてもRNAポリメレースの阻害作用を持つ化合物が登場したことになります。

新しいインフルエンザ治療薬が求められるには理由があります。

タミフルは、インフルエンザ治療薬として確固たる地位を占めていますが、ご存知の通り、(因果関係は不明ですが)若年者への異常行動の可能性が指摘され、十代のインフルエンザ患者への投与は原則禁止となっています。そこで、タミフルが投与できない患者のために、他の選択肢が必要となります。

タミフル以外のインフルエンザ治療薬として、リレンザという薬があります。タミフルと作用メカニズムが同じ(ノイラミニダーゼ阻害薬;ノイラミニダーゼというタンパク質の働きを抑えます)なのですが、リレンザは飲み薬ではありません。リレンザは口から特殊な器具で吸入して用います。

しかし、世の中で使われているリレンザの量は、タミフルに比べるとごくごくわずかなものです。これは、吸入と言う投与法のため、インフルエンザ患者の多数を占める子供の患者への服薬がしにくい、という事情があるのだといわれています。つまり、飲み薬であることが、抗インフルエンザ薬開発における重要ポイントなのです。

この、飲み薬というハードルは意外に高いです。口から飲んだ薬は、胃や腸で吸収され、肝臓をとおって血液に入って全身に運ばれます。ところが、薬が、胃や腸から吸収されにくかったり、肝臓で分解されたりして、血液中にほとんど入らない、という現象はよく見られるものです。

リレンザに続き、現在臨床試験が行われている、新規ノイラミニダーゼ阻害薬は、注射薬(ペラミジル)か吸入薬であり、飲み薬というハードルを超えていません。誰にでも使いやすい薬、、とはいかないようです。
(ただし注射薬については、意識のない重症患者への投与、飲み薬が飲めないほど小さな乳幼児への投与が可能、という特別な用途についての利点があります。)

では、タミフルやリレンザの問題点を超える新薬はないのでしょうか?

ここで、T-705の登場です。

T-705は、タミフルやリレンザと全く違うメカニズム、RNAポリメレース阻害作用を用いて、インフルエンザウイルスにアプローチしています。おそらく、現在開発されているノイラミニダーゼ阻害薬の構造には、飲み薬には不適切な部分構造を持っているのだと思われます。しかし、作用メカニズムが違えば、化合物の構造を大幅に変えることが可能で、飲み薬に出来る可能性は高まります。

またタミフルやリレンザに抵抗性をもつウイルスが発生した場合には、タミフルやリレンザと異なるメカニズムを持つT-705は、これらのウイルスにも有効であると考えられます。

現在、おそらく明らかにされてないだけで、各製薬会社は、T-705のようなタミフルに続く薬をこぞって開発しているものと思われます(と思いたいです)。その結果が出るのは、まだまだ先のことではありますが、薬を作るものとして、注目していきたいと思います。



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T-705の構造式
 T-705の構造式


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