MSコンチン(塩野義製薬、ムンディファーマ、商品名MSコンチン、主成分塩酸モルヒネ)は、癌性疼痛(がん性疼痛;癌による痛み)の治療に用いられる強力な鎮痛薬です。モルヒネの強力な鎮痛効果は、通常の鎮痛薬が効かない激痛を止められることから、末期癌患者の疼痛治療には欠かせない薬剤です。
スポンサーリンク
MSコンチンの主成分であるモルヒネは、ケシという植物の果実から得られるアヘンの有効成分として発見されました。アヘンが持つ非常に強い鎮痛効果と幻覚作用は古くから知られており、痛み止めとして使われてきました。ドイツの薬剤師フリードリヒ・ゼルチュルナーは、アヘンの有効成分を精製抽出した結果、モルヒネを発見しました。
モルヒネの作用機序(作用メカニズム)は、モルヒネがオピオイドμ受容体というタンパク質に結合し活性化させるというものです。オピオイドμ受容体は、神経伝達の場である「シナプス」の機能を低下させ、痛みが伝わらないようにします。
シナプスは、神経細胞間のスイッチに当たる場所で、異なる神経間の情報の流れを制御する場所です。一方の神経細胞(シナプス前細胞)が活性化されると、神経伝達物質が他方の神経細胞(シナプス後細胞)に向けて放出されます。神経伝達物質はシナプス後細胞表面の受容体に結合して活性化し、電気的に興奮させることで神経伝達のスイッチがオンにします。
オピオイドμ受容体はシナプス前細胞にあり、活性化すると神経伝達物質の放出を抑制します。モルヒネはμ受容体を活性化するので、神経伝達物質が放出されにくくなり、痛みの伝達経路のスイッチがオフになります。
モルヒネは、末梢神経から脳に至る痛みの伝達経路の途中あるシナプスで、痛みを伝える信号をほぼ完全にブロックできるので、非常に強い鎮痛効果を示します。末期癌では非常に強い癌性疼痛が起きますが、モルヒネは他の痛み止めに比べ遥かに強い鎮痛効果を示します。。
近年では、モルヒネと同じようにオピオイド受容体に結合して鎮痛効果を示す化合物が多数開発され、合成オピオイドと呼ばれています。これらの薬は、癌の痛みのコントロールに欠かせません。癌性疼痛治療薬であるデュロテップパッチ、アクレフは、オピオイドであるフェンタニルが主成分です。
スポンサーリンク
MSコンチンは、徐放性製剤と呼ばれる薬剤で、モルヒネが体内で長時間に渡って放出され、鎮痛作用の持続時間が長くなります(8-12時間)。ただし、錠剤を噛んで服用すると、薬剤をゆっくり放出させるための錠剤の構造が壊れてしまい、持続的な効果は得られないので注意が必要です。
MSコンチンのような徐放性製剤は、作用時間が長いという点から、痛みが起こりにくくさせるタイプの薬です。一方、激しい痛みが起こった場合には、即効性の薬剤を使用する必要があります。即効性薬剤の例として、オプソが挙げられます。
モルヒネには、幻覚・多幸感、依存性(使っているとやめられなくなる)や呼吸困難・便秘などの副作用がありますが、これらはオピオイドμ受容体によるものです。がん性疼痛の治療時には、幻覚や依存性は起こりにくいとされます。一方で、しつこい便秘は患者さんの生活の質(QOL;quality of life)を低下させる副作用です。便秘は、消化管にあるオピオイドμ受容体によって、腸の運動を抑制するため起こります。
モルヒネを始めとするオピオイドの投与法・使用法は進歩しており、専門医の指示通り服用すれば、対症療法を併用することで副作用の問題を小さくできます。
また、複数種類のオピオイドが使用できる様になったことから、これらの薬剤を順番に使う「オピオイドローテション」と呼ばれる方法も取られるようになりました。オピオイドローテーションにより、長期間の使用によって鎮痛作用が弱くなる「耐性」という現象を弱めることができます。
[この記事を書いた人]
薬作り職人
国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。
スポンサーリンク
スポンサーリンク