イレッサ(ゲフィチニブ)とはどんな薬?

イレッサ(アストラゼネカ、主成分 ゲフィチニブ)は、肺がんの中でも「手術不能または再発非小細胞肺がん」の治療に用いられる抗がん剤です。肺がんは、小細胞肺がんと非小細胞肺がんの二種類に大きく分類されますが、日本人に発症する肺がんの80%以上は非小細胞肺癌です。

イレッサは、分子標的薬と呼ばれる種類の抗がん剤です。主成分であるゲフィチニブは、肺がん細胞の表面に発現する上皮成長因子受容体(EGFR)の働きを抑制する作用を持っています。

上皮成長因子(EGF)は、上皮細胞(組織の表面を構成する細胞)の増殖を促進させます。EGFはEGFRに結合して活性化し(チロシンキナーゼ活性化と呼びます)、細胞内へ細胞増殖を起こす信号を伝えます。ゲフィチニブは、EGFRに結合してチロシンキナーゼ活性を抑制し、がん細胞の増殖を止めます。

イレッサの使用経験が増えるにつれ、強い抗がん作用が認められる患者さんの集団がいることもわかって来ました。EGFRに遺伝子変異がある場合、薬剤の効果が通常よりも強くなることがわかったのです。この変異が存在するがん細胞では、EGFRが常に活性化状態であるため、ゲフィチニブの効果が出やすい状態になっているのです。

EGFRが、イレッサの効果が出やすくなる変異を持つかどうかは、遺伝子検査で調べられます。そこで、遺伝子変異を持つ人と持たない人との間で抗がん作用を比較する臨床試験が行われました。その結果、変異がある患者では、これまでの抗がん剤にくらべ高い効果を認めましたが、変異を持たない人では、既存の薬剤よりも弱い有効性しか示さないことがわかりました。つまり、イレッサは、EGFR遺伝子変異を持つ人に投与したほうが良い、ということなのです。

日本の肺がん治療ガイドラインでは、EGFR遺伝子変異を有する非小細胞肺癌の場合、イレッサの使用が推奨されています。効果がある人にのみ薬剤が投与される、ということは、効果が得られず副作用のリスクだけにさらされるという危険が少なくなることを意味します。

一方、イレッサの副作用として、間質性肺炎や急性肺傷害が知られており、重篤な場合には死亡することもあります。発売当初は、間質性肺炎による副作用死が多数認められ、製薬会社や国を相手とした訴訟が起こるなど社会問題化しました。したがって、間質性肺炎が起きる危険性がある人(例:服用前に肺間質に炎症がある、全身状態が悪い、喫煙者)がイレッサの服用を希望する場合は、治療効果による利益と副作用のリスクを考慮し、使用を判断します。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


イレッサ(ゲフィチニブ)の構造式