ハルナール(塩酸タムスロシン)とパルナック(塩酸タムスロシン)とはどんな薬?

ハルナール(アステラス製薬、主成分塩酸タムスロシン)とパルナック(科研製薬、主成分塩酸タムスロシン)は、ともに男性特有の疾患である前立腺肥大症によって生ずる排尿障害の治療薬です。

前立腺とは、男性の膀胱の下にある臓器で、前立腺の中には尿道が通っています。前立腺肥大症では、前立腺が大きくなり、前立腺の筋肉が収縮して、前立腺の中を通っている尿道を狭めるため、おしっこが出にくくなります。また、膀胱から尿がでにくくなるために、膀胱におしっこがすぐたまってしまい、頻繁にトイレに行きたくなります。

ハルナールやパルナックは、前立腺の筋肉にあるα1アドレナリン受容体の働きを抑制することで、前立腺の筋肉の収縮を押さえます。すると、尿道の中を尿が流れやすくなり、おしっこを膀胱から出しやすくなるので、尿意がおこりにくく、トイレに行く回数を減らすことができます。

さてハルナールとパルナックの主成分は、いずれも塩酸タムスロシンです。ハルナールとパルナック。ハルナールはいわゆる先発品、パルナックはいわゆる後発品(ジェネリック医薬品)です。

「先発品」とは、新規に発見した化合物(たとえば塩酸タムスロシン)からできている医薬品です。製薬メーカーは、通常は新規化合物(塩酸タムスロシン)について特許を取得するので、他のメーカーは塩酸タムスロシンを含む薬を作ることはできません。

そして、特許期間が切れると、特許切れを待っていた複数の会社が、一斉に塩酸タムスロシンを主成分とする薬、例えばパルナックを発売します。先発品の後に売り出されるので、パルナックのような薬は「後発品」と呼ばれます。

同じ主成分を含むハルナールとパルナック。全く同一の薬のように見えますが、実はいろいろ異なる部分があると思われます。例えば飲み薬の場合、主成分の塩酸タムスロシンにいくつかの物質を加えて、製剤(錠剤など)を作らなければいけません。このときに使われるレシピは、いわば製薬メーカーの秘伝のようなもの。そのため先発品(ハルナール)と後発品(パルナック)で、製剤用のレシピが全く同じであることはないと思われます。

このレシピが違うとどうなるか。ハルナールやパルナックを飲み込むと、薬は、胃そして小腸へ動いていき、胃液や腸液で溶けて塩酸タムスロシンを放出します。このとき、ハルナールやパルナックで製剤のレシピが違うと、薬の溶け方が変わり、塩酸タムスロシンの放出速度が変わってくる可能性があります。

というわけで、後発品を開発する際には、先発品と後発品で、溶ける速度が同一であることを証明するための試験(溶出試験)が必要となります。レシピが違っても、両薬剤で同様に溶け出すことを証明しておくのです。

ただし、これは試験管の中での話。実際ヒトの消化管の中で同様に溶け出し、吸収されるのかどうかは、実際にヒトに投与してみないとわかりません。この試験では、健康なヒトにハルナール、パルナックを投与し、血液中の塩酸タムスロシンの濃度を測定します。血中の薬物濃度が両薬物で等しい場合に、両薬物は同等の溶解性、吸収性をもつと判定します。

先発品と後発品が同等の吸収性を有するとされた場合、これらの薬物は「生物学的同等性を持つ」といいます。生物学同等性が認められた場合、後発品については患者さんを対象とした臨床試験が免除されます。両薬物で、血液に同じだけ主成分が入れば、同じだけ効果も出るという考え方です。

患者さんを対象とした臨床試験が免除されるため、後発品については開発費が非常に安くすませることができ、安い薬にすることができます。ジェネリック医薬品が安い理由はこれです。

先発品と後発品、ハルナールとパルナック、自分が飲むならどちらを選ぶか。この判断のためにも、先発品と後発品の違いを頭に入れておくとよいと思います。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


塩酸タムスロシンの構造式