フェロミア(クエン酸第一鉄ナトリウム)とはどんな薬?

フェロミア(エーザイ、主成分クエン酸第一鉄ナトリウム)は、鉄剤と呼ばれる薬です。フェロミアは、鉄剤という名前の通り、体内で鉄が不足したときに、鉄を補給するために用いられます。フェロミアは、体内の鉄が不足するために起こる鉄欠乏性貧血というタイプの貧血の治療薬として用いられています。

フェロミアに含まれる鉄は体内に多く含まれている元素で、肺から吸収した酸素を体全体に運ぶという重要な働きをしています。体内では、血液中の赤血球が酸素を運ぶ働きをしているのですが、この働きの主役はヘモグロビンというタンパク質です。ヘモグロビンの中には、鉄を含む構造があって(ヘムといいます)、このヘムが酸素をヘモグロビンに結合させるために重要な働きをしています。

何らかの原因で体内の鉄が少なくなると、赤血球中のヘモグロビン量が少なくなり、酸素を運ぶ働きが障害されるために、けん怠感,動悸,息切れ,めまい、などの貧血の症状が現れます。フェロミアは、体内に吸収されると、赤血球やヘモグロビンが作られる部位である骨髄へと移動します。フェロミアは、骨髄の中にある、将来赤血球になる細胞(赤芽球)の中にとりこまれて、ヘモグロビンの合成に使われます。すると、ヘモグロビンの量が増えて、酸素を運ぶ働きが回復し、貧血の症状が改善します。

次のような場合に、フェロミアによる鉄分補給が必要となります。

  1. 鉄が体外に出て行く場合。この原因のほとんどは出血によるものです。胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの病気では、出血が長期間続くため、血液量が減少し、ヘモグロビンの量も減少します。また、女性の場合だと、生理による出血が血液量減少の大きな原因となります。
  2. 鉄の使用量が多くなった場合。例えば、女性が妊娠すると、胎児に栄養を送るために多量の血液が必要となります。そのため、妊婦さん自身の酸素の運搬に必要な血液が不足してしまい、貧血症状がおきることがあります。
  3. 鉄の吸収が悪くなったとき。ヒトは体内で鉄を合成できないので、食物などから鉄を取り入れる必要があります。しかし、胃がんの手術などで、胃や腸を切除した場合には、鉄の吸収量が少なくなるため、副作用として鉄不足になることがあります。

フェロミアは、食物に含まれている何十倍もの量の鉄を含んでいるので、効率よく鉄を補給することができます。また、フェロミアには、鉄が胃や腸から吸収されやすくなるような工夫が取り入れられています。鉄は酸性が高い胃のほうが吸収されやすく、酸性度が低い腸からは吸収されにくいのですが、フェロミアの場合はクエン酸第一鉄ナトリウムという化合物にすることで、酸性度が高くても低くても、鉄が吸収されやすくなるようにしています。

普段の生活では、鉄剤のお世話になることはないのですが、それでも適量の鉄を含んだ食べ物を食べることは大切です。レバーやひじきなどの鉄を含む食材を用いた食事を心がけたいものです。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


フェロミア(クエン酸第一鉄ナトリウム)の構造式