ゼチーア(エゼチミブ)とは? 真の標的が後から見つかった薬

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ゼチーア(MSD、バイエル薬品、現在の販売元:オルガノン、主成分エゼチミブ)は、血液中のコレステロールが多すぎる状態である高コレステロール血症の治療薬です。小腸からのコレステロールの吸収を抑えて、血液中のコレステロールを下げます。2002年にアメリカとドイツで、2007年に日本で発売されました。

ゼチーアの主成分エゼチミブは、創薬研究の中で、「想定とは異なるメカニズムで効いているらしい化合物」として見つかりました。その後、化合物が体の中で変化してできる物質(代謝物)を手本に改良され、薬になりました。そして、どのタンパク質に働いているのか(標的)がわかったのは、発売から2年後のことでした。

この記事では、ゼチーアの効き方を短く紹介したあと、この薬がどのようにして見つかり、標的が後からわかったのかを、薬を作る側の目線で紹介します。

ゼチーアの作用メカニズム

コレステロールは、細胞膜やホルモンの材料になる、体に欠かせない物質です。しかし、血液中のコレステロール(特に LDL コレステロール)が多すぎる状態が続くと動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳梗塞などの危険が高まります。

体の中のコレステロールの多くは肝臓で作られ、残りは食べ物から取り入れられます。小腸では、食べ物に含まれるコレステロールと、胆汁(肝臓から腸に出される消化液)に含まれて腸に出てきたコレステロールが吸収されます。小腸の表面の細胞には、NPC1L1(Niemann-Pick C1-Like 1)というタンパク質があり、腸の中のコレステロールを細胞に取り込む入り口の役目をしています。

エゼチミブは、この NPC1L1 に結合して、コレステロールの取り込みを妨げます。その結果、小腸から吸収されるコレステロールが減り、血液中のコレステロールが下がります。

コレステロールを下げる薬の中心は、スタチン(例:メバロチン(主成分プラバスタチン)、クレストール(主成分ロスバスタチン))と呼ばれる薬です。スタチンは肝臓でコレステロールが作られるのを抑えます。ゼチーアは「吸収」を抑えるので、スタチンとは効く場所が違います。

ただし、小腸からの吸収が減ると、肝臓はそれを補おうとして、コレステロールを多く作るようになります。ヒトでの研究では、エゼチミブを飲むと吸収が約半分に減る一方、体の中で作られるコレステロールは2倍近くに増えました。そこで、作るのを抑えるスタチンと組み合わせると、両方の働きが合わさって、コレステロールがより下がるのです。そのため、ゼチーアは、スタチンだけでは十分に下がらない場合に一緒に使われます。エゼチミブとスタチンを1つの錠剤にした配合剤(アトーゼット、ロスーゼットなど)もあります。

ゼチーアはどのように見つかったか

ねらいはACATだった

1990年代のはじめ、アメリカのシェリング・プラウ社(現在の MSD)の研究者たちは、ACAT(アシルCoA:コレステロールアシル転移酵素)という酵素の働きを止める薬を探していました。ACAT は、小腸の細胞に取り込まれたコレステロールを、体に運び出せる形(コレステロールエステル)に変える酵素です。ACATの働きを低下させれば、コレステロールの吸収が減ると考えられていました。

スクリーニング(多くの化合物から効くものを選び出す試験)を進めていくと、コレステロールを多く含む餌を与えたハムスターで、血液や肝臓のコレステロールを大きく減少させる SCH 48461 という化合物が見つかりました(1994年に報告)。ところが、詳しく調べると、SCH 48461 の効果は ACAT への作用では説明できませんでした。コレステロールの吸収を抑えているのは確かなのに、何に働いているのかがわからない。最初の想定とは違うメカニズムで効果を示す化合物だったのです。

研究チームは、ACAT にこだわらず、「コレステロールの吸収を抑える」という効き目そのものを手がかりに、この化合物を追いかけることにしました。

私の経験でも、最初の想定とは違うメカニズムで効く化合物が見つかると、あらためて新しい研究テーマとして立ち上げることがありました。最初に見つかった化合物が、そのメカニズムの薬としてベストとは限らず、改めて最適な化合物を探す必要があるためです。

代謝物を手本に改良する

SCH 48461 には問題もありました。ラットでは、飲んだ化合物が小腸から吸収されて肝臓を通る1回目の段階で、ほぼすべてが別の物質(代謝物)に変わってしまうのです。ところが、これが手がかりになりました。

研究チームは、代謝物のほうを調べました。SCH 48461 をそのまま腸に入れるとコレステロールの吸収が約70%低下しましたが、SCH 48461 を与えたラットの胆汁(代謝物を含む)を、別のラットの腸に入れると、95%以上低下しました。代謝物のほうが、強い効果を示したのです。胆汁の中の代謝物を分析すると、最も強い効果を示したのは、SCH 48461 の一部(メトキシ基、-OCH3)が水酸基(-OH)に変わり、そこにグルクロン酸(糖の仲間)がついた形の代謝物でした。

一方、化学者たちは、SCH 48461 の構造の中で、代謝により変化しそうな場所を予想して、代謝物の可能性がある化合物を合成し、ハムスターで効果を比べました。その結果をもとに、「効果を強める構造は最初から取り入れ、効果を弱める変化は起こらないよう、代謝されやすい場所にフッ素をつけてふさぐ」という考え方で設計されたのが、SCH 58235、のちのエゼチミブです(1998年に報告)。エゼチミブは、コレステロールを多く含む餌を与えたサルで、SCH 48461 の約400倍の強さを示しました。

私の経験でも、代謝物を手がかりに、体の中での吸収や分解のされ方(薬物動態)を改良する事例はよくありました。代謝物が実際に効いている本体(活性本体)だったこともありました。

ゼチーア(エゼチミブ)の構造式

エゼチミブは、飲むと小腸や肝臓でグルクロン酸がついた形に変わります。この形もよく効き、胆汁と一緒に腸に戻って、また吸収されるという循環を繰り返します。そのため、腸の近くに長くとどまり、1日1回の服用で効き続けます。

標的は発売後に見つかった

エゼチミブは臨床試験でコレステロールを下げる効果が確かめられ、2002年に発売されました。しかしこの時点でも、エゼチミブの真の標的分子はわかっていませんでした。

答えが出たのは2004年です。シェリング・プラウ社の研究者たちは、遺伝子のデータベースの中から、「小腸で働いていて、コレステロールのような物質を扱えそうな形をした膜タンパク質」を探し、NPC1L1 にたどり着きました。NPC1L1 の遺伝子をなくしたマウスでは、コレステロールの吸収が大きく減り、エゼチミブを与えても、それ以上は減りませんでした。翌2005年には、エゼチミブ(グルクロン酸がついた形)が NPC1L1 に直接結合することも確かめられました。

効き目から見つかった薬の標的を、遺伝子の情報(ゲノム)を使って突き止めたわけです。

標的がわかったことで、遺伝子から薬の効果を確かめる研究もできるようになりました。2014年には、生まれつき NPC1L1 の遺伝子の片方が働かない人を調べた研究が発表され、そうした人は LDL コレステロールが低く、心臓の血管の病気(冠動脈疾患)になりにくいことが示されました。また同じ年には、急性冠症候群(心筋梗塞など)の患者さん約1万8千人を対象にした臨床試験(IMPROVE-IT)で、スタチンにエゼチミブを加えると、7年間で、心臓や血管の病気などが起こった人の割合が、スタチンだけの34.7%から32.7%に下がったことが報告されました(論文は2015年)。

ねらいと違う効き目を見逃さない

今の創薬では、まず標的を決め、その標的に結合する化合物を探すのが一般的です。

私自身、メカニズムがわからないまま、動物で効く化合物をやみくもに探すような研究は、したことがありません。効率が悪すぎるからです。一から始めるなら、標的とその形を知っているかどうかで、研究の効率と確かさはまったく違います。

ゼチーアも、ACAT という標的を決めた研究の中で見つかった薬です。想定していたものと違う結果が出たとき、「狙っていたものとは違う」と捨ててしまうこともできたはずです。シェリング・プラウ社の研究者たちは、そうせずに、目の前の化合物が「コレステロールの吸収を抑える」という事実を信じて追いかけ、代謝物の形から学んで、より良い化合物を作りました。標的は、そのあとから見つかりました。

標的が見つかる時期は、薬によってさまざまです。ゼチーアは発売から2年後でしたが、リザベン(トラニラスト)のように、使われ始めてから長い年月がたって、ようやく標的の候補が見えてきた薬もあります。

標的をねらった論理的な創薬の中にも、想定と異なる結果に出会う瞬間があります。そのときに立ち止まって、「これは何だろう」と追いかけられるかどうか。ゼチーアは、そこから新しい薬が生まれることを教えてくれます。

関連記事:プラバスタチン(メバロチン)とはどんな薬?/リピトール(アトルバスタチン)とはどんな薬?/リザベン(トラニラスト)とは?

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。