セルベックス(エーザイ、主成分テプレノン)は、胃炎や胃潰瘍で痛んだ胃の粘膜を治すための薬です。胃炎や胃潰瘍では、胃の粘膜を守る防御因子の働きが低下して、胃酸の胃の粘膜に対する攻撃力が高まり、胃の細胞が傷づくことで炎症が生じます。
セルベックスの主成分であるテプレノンは、胃からの粘液分泌を高めて粘膜を守り、傷ついた胃粘膜の再生を促進させて、胃炎などの症状を改善します。
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セルベックスの治療効果は、2つの異なる作用からなります。一つは胃粘膜防御に関わる生理活性物質「プロスタグランジン」の産生を高める作用で、もう一つは胃の細胞を保護するタンパク質の産生を高める作用です。
胃の表面は、胃酸や消化酵素からの傷害を防ぐため、粘液で覆われています。胃炎や胃潰瘍では、この粘液が足りなくなり、胃の表面の細胞が傷つきます。セルベックスの主成分であるテプレノンは、胃粘液の量を増やす物質「プロスタグランジン(正確にはPGE2,PGI2)」の産生量を増やします。
セルベックスを服用すると、プロスタグランジンの量が増え、胃粘液量がふえて、胃酸や消化酵素から胃の細胞を防御する能力が高まります。
また、プロスタグランジンは胃の血管の血液量を増やします。その結果、セルベックスは、胃への血液量を増やし、栄養が胃粘膜にいきわたるようにして、細胞を保護します。
セルベックスは、傷ついた胃の細胞のなかで、熱ショックタンパク質(Heat Shock Protein、略してHSP)というタンパク質を作り出します。
細胞に有害なストレス(熱とか傷害とか)が加わると、細胞内のタンパク質の構造が壊れ、うまく機能しなくなります。HSPは、このタンパク質の構造の乱れを治します(この機能をシャペロンと呼んでいます)。セルベックスは、傷ついた胃の細胞にHSPを作らせることで、細胞の機能を改善します。
もともと、セルベックスは、植物が作り出すフィトンチッドという成分の研究から生まれました。
フィトンチッドとは、植物が自分の身を守るために作り出す物質で、傷ついた部分を修復する作用をもつ、テルペン類と呼ばれる物質を含みます。
エーザイの研究者たちは、このテルペン類で胃の細胞を修復できるのではないか、と考え、さまざまなテルペン類を合成し、その結果セルベックスを作り出すことができました。
セルベックスは、自然をお手本にした薬です。自然は、薬を作り出すためのヒントをいろいろ与えてくれます。そのヒントをきちんと見つけ、よい薬を作っていきたいものです。
[この記事を書いた人]
薬作り職人
国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。
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