ラックビー(ビフィズス菌)とはどんな薬?

ラックビー(興和、主成分ビフィズス菌)は、腸の中の細菌によっておこる下痢や便秘を治療するための薬です。ラックビーは、微生物を主成分とする変わった薬です。ラックビーは、ビフィズス菌という細菌を凍結乾燥(急速に凍結し、さらに真空にさらして水分を飛ばし乾燥すること)して粉末状にしたものです。

ラックビーを飲むと、小腸でビフィズス菌が生きた状態にもどります。そして、ビフィズス菌は、腸内で乳酸や酢酸という酸性の物質を作り出します。ラックビーは、腸の中で悪さをしている細菌を酸にさらすことで殺してしまうので、ラックビーを飲むと腸の異常が収まるというわけです。

さて、微生物の塊をつかってラックビーを作り出す、というアイデアは、どこから来たのでしょうか?

時代は、約50年前にさかのぼります。1950年代の日本では、医療技術が進んでいなかったので、赤ちゃんの死亡率が現在に比べ非常に高い時代でした。そんな中、母乳で育てた赤ちゃんは、人工栄養(粉ミルク)で育てた赤ちゃんよりも、腸に起こる感染症の感染率や死亡率が低い、という現象が認められました。

そこで、母乳で育てた赤ちゃんには、腸の感染症に効く何かがあるのではないか?という考えが起こりました。そこで登場したのがビフィズス菌です。

ラックビーの主成分であるビフィズス菌は、1899年フランスのティシエという研究者によって、赤ん坊のうんちの中から見つかりました。ビフィズス菌は、全て動物の腸内にすんでいて、腸内の糖分を分解し、乳酸や酢酸を作り出す働きをしています。腸の中には様々な細菌がすんでいるのですが、ビフィズス菌は有害な細菌を殺すことで、腸内の細菌の質を高める作用があると考えられていました。

このビフィズス菌は、母乳で育てた赤ちゃんの腸内にたくさん存在していることが、研究によってわかりました。そこで、ビフィズス菌は赤ちゃんの健康状態を保つのに重要な細菌ではないか、と考えられるようになりました。そこで、ビフィズス菌を、人工栄養を取っている赤ちゃんの腸に直接送ってやろう、というアイデアが生まれました。

ビフィズス菌を保存するために様々な方法が試みられた結果、凍結乾燥という方法が選ばれました。そして、ビフィズス菌の長期保存が可能な世界初の薬、ラックビーが完成したのです。

ビフィズス菌は体内で善玉として働いています。そのため、ラックビーは、重い副作用がほとんど起きない、非常に優秀な薬となっています。細菌というと、一般的に悪いイメージが浮かぶのですが、ラックビーをみればわかるように、一概にそうとはいえません。面白いですね。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。