ムコソルバン(アンブロキソール塩酸塩)とはどんな薬?

ムコソルバン(帝人ファーマ、主成分アンブロキソール塩酸塩)は、気道にたまった痰を出しやすくするための去痰薬と呼ばれる薬です。気管支炎や気管支喘息では、気管で慢性的に粘液が分泌されて大量の痰になって気道をふさぎ、咳や息苦しさの原因になります。主成分のアンブロキソールは、気管の細胞に働きかけて、気管表面の滑りを良くしたり、粘液を外に押し出す繊毛(せんもう)の働きを高めることで、痰を出しやすくします。また、この作用メカニズムを利用して、ムコソルバンは蓄膿症(ちくのう症、慢性副鼻腔炎)での鼻の詰まりを改善するためにも使われます。

痰は、気管の細胞が分泌する粘液で、気道に入った異物を絡めとる役割を持っています。痰は、気道表面の毛(繊毛)によって口に向かって押し出され、咳によって体外に排出されます。

痰は生体を異物から守るための仕組みですが、気道からの粘液分泌が必要以上に多くなると、ねばねばした痰が気管支を塞ぎ、しつこい咳や息苦しさ、喘息発作の原因となります。粘液が多くなる原因は、気道に起こる炎症です。痰による症状を改善するには、本来は粘液分泌の原因となる炎症を抑えるべきですが、できてしまった痰を排出しやすくするには、去痰薬(きょたんやく)とよばれる薬物の助けが必要です。

ムコソルバンの主成分であるアンブロキソールは、2種類のメカニズムで気道の細胞に働きかけ、痰を出しやすくします。

  1. 痰を動きやすくする作用
  2. アンブロキソールは、肺の肺胞という組織で作られるサーファクタントという液体の分泌量を増やします。気管支に炎症が起こると、サーファクタントの量が減り、肺胞や気管支の細胞表面に痰がくっつきやすくなり動きにくくなります。ムコソルバンを服用すると、サーファクタントの量が増え、痰が気道にくっつかないので動きやすくなり痰を出しやすくなります。

  3. 痰を動かす作用
  4. アンブロキソールは、気管支の細胞表面にある繊毛(せんもう)という毛の運動を高める働きも持っています。繊毛は、気道表面の異物や痰を口の方向に移動させます。ムコソルバンを服薬すると、サーファクタントが増えて動きやすくなった痰が、繊毛の活動増加によってどんどん口の方に動いていきます。

    また、繊毛は鼻の粘膜にも存在するので、蓄膿症でできる膿についても気道と同じメカニズムで体外に出やすくできます。

ムコソルバンは、常に痰ができるような慢性炎症(気管支炎や喘息)に用いられます。この場合、薬の効果の持続時間は長いほうが都合がよいので、ムコソルバンには薬剤を長時間に渡ってじわじわと放出できる「徐放カプセル剤」が用意されています。

ムコソルバンは、気管支の細胞に作用することまではわかっていますが、どのような分子メカニズムによりサーファクタントを増やしたり繊毛を動かすのかは、未だはっきりとわかっていません。「痰を出やすくする」というありふれた効果でさえ、わからないところはまだまだあるのです。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


ムコソルバン(アンブロキソール塩酸塩)の構造式