ガナトン(塩酸イトプリド)とはどんな薬?

ガナトン(アボットジャパン、主成分塩酸イトプリド)は、おなかの膨満感や胸焼け、食欲不振や吐き気などの、慢性胃炎によって起こる消化器の症状を治療するための薬です。ガナトンが用いられる慢性胃炎では、胃や腸の動きが悪くなって、食べ物が消化管の中を移動しにくくなるために、膨満感や胸焼けなどの症状が出ます。ガナトンは、胃や腸の動きを活発にしたり、吐き気を催す脳の部分をコントロールすることで、胃炎の症状を抑えます。

ガナトンは、胃や腸の動きをコントロールする神経に働くことで、消化器の運動を活発にします。胃や腸には、消化器の動きをコントロールする神経が分布しています。この神経からはアセチルコリンという物質が放出されます。このアセチルコリンが、腸の筋肉にあるムスカリン受容体というタンパクに結合し。これを活性化させると消化器の筋肉は収縮し、蠕動運動という仕組みによって、消化器の中の食物は移動していきます。

ガナトンは、消化器の運動をつかさどるアセチルコリンの作用を高める働きを持っています。具体的には、ガナトンは、神経から分泌されるアセチルコリンの量をふやす働きを持っています。

神経から分泌されるアセチルコリンは、アセチルコリンエステラーゼという酵素タンパク質によって速やかに分解されるのですが、ガナトンはこの酵素の働きを止めてしまいます。するとアセチルコリンは分解されないために、その量が増えるのです。

また、神経からのアセチルコリンの分泌はドパミンという物質によってもコントロールされます。ドパミンは、神経にあるD2受容体というタンパク質に結合して、これを活性化させます。D2受容体は、神経からのアセチルコリンの分泌量を減らす働きを持っているので、ドパミンは消化器の運動を押さえる働きを示します。

ガナトンは、このD2受容体に結合する作用を持っています。そのため、ガナトンは、ドパミンがD2受容体に結合するのを邪魔します。ガナトン自体にはD2受容体を活性化させる作用はないので、ガナトンはドパミンの働きを抑え、アセチルコリンの分泌を増やすことができます。

また、ガナトンのD2受容体に対する作用は、吐き気を抑えるメカニズムにも関与しています。脳には、吐き気を起こさせる部分(嘔吐中枢)というのがあります。嘔吐中枢にはD2受容体があり、ドパミンによってD2受容体が活性化されることにより、嘔吐中枢が刺激されて吐き気を起こします。ガナトンはD2受容体の働きを止めて嘔吐中枢の活性化を押さえる作用があるので、ガナトンには吐き気を抑える作用があるのです。

ガナトンは、一つの薬で何通りものメカニズムで効果を示す非常に効率のよい薬です。最近の新薬は、ある一つのメカニズムに特化したものが多いのですが、ガナトンのような柔軟な効き方をしめす薬が、もっと開発されてもよいのではないかと思います。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


ガナトン(塩酸イトプリド)の構造式