アナペイン(ロピバカイン塩酸塩水和物)とはどんな薬?

アナペイン(アストラゼネカ、主成分 ロピバカイン塩酸塩水和物)は、手術時の麻酔、手術後におこる激しい疼痛を止めるために用いられる鎮痛薬です。また、末梢神経の異常による痛みを止めるための神経ブロックという治療にも用いられます。

アナペインは、注射部位の神経だけに麻酔効果を示す局所麻酔薬と呼ばれる種類の薬です。投与部位としては、脊髄を覆う膜である硬膜の外側(硬膜外腔:硬膜外麻酔)や、痛みを伝達する末梢神経の通り道(神経節、神経叢への伝達麻酔)があります。

アナペインの主成分であるロピバカインは、痛みを伝える知覚神経のナトリウムチャネルというタンパク質の働きを止めて、神経伝達に必要な電気信号を発生させなくして強い麻酔作用を示します。

アナペインは、非常に強い鎮痛作用を示します。これは、主成分であるロピバカインが末梢知覚神経の電気活動を強力に遮断し、痛み感覚を脳に伝えなくするからです。

膝や肩などの整形外科での手術では全身麻酔位が用いられますが、麻酔が切れると体を動かすだけで強い痛みが生じ、体に強いストレスがかかります。この痛みは、アナペインのような局所麻酔薬を硬膜内に持続的に注入することで取り除くことができます。

また、外傷などで神経が傷つくと、傷が治っても慢性的に強い痛みが残ることがあります(神経障害性疼痛といいます)。この痛みの治療には、痛みを伝える知覚神経(神経節、神経叢)に、アナペインのような局所麻酔薬を直接投与(神経ブロック)して、痛みの伝達を完全に止めます。

アナペインの鎮痛作用は、神経が痛み感覚を伝える際に必要な電気信号の発生を止めることで起こります。

痛覚を引き起こす刺激が末梢神経の末端にある痛覚受容器に入ると、細胞外のナトリウムイオンが細胞内に流入して、神経細胞の膜に電圧が発生し、痛みの刺激が電圧の変化という電気信号に変換されます。この信号が、知覚神経という電線を介して脳まで伝達されて、痛み感覚として認知されるのです。アナペインは、この電線に電気が流れなくして、痛み感覚を強く抑制します。

神経細胞にナトリウムイオンを流入させ電圧変化を生じさせる分子は、細胞の内外を仕切る細胞膜に存在するナトリウムチャネルというタンパク質です。アナペインの主成分であるロピバカインは、この分子の機能を低下させます。

ナトリウムチャネルは、細胞膜に開いた蓋付きのトンネルのような分子で、神経細胞に電気信号が届いたときに開き、ナトリウムイオンだけを選択的に細胞内に流入させます。ロピバカインはイオンチャネルに結合して、ナトリウムイオンが細胞内に入れなくします。すると、神経伝達の引き金となる電圧変化が起こらず、知覚神経に電気信号が発生しません。この結果、アナペインを投与すると、痛み信号が脳に伝わらず、強い麻酔作用が生じるのです。

アナペインの副作用としては、全身に分布した場合の循環器系の症状(血圧低下、心拍数低下)が挙げられます。ロピバカインの標的分子であるナトリウムチャネルには複数の種類があり、その中には心臓で脈拍のコントロールを担当するものもあり、この機能を低下させると血圧や心拍数が低下します。

しかし、アナペインは知覚神経に直接投与されるので、薬剤が全身に行き渡る可能性は低く、心臓への作用はもともと出にくくなっています。また、ロピバカインの心臓のナトリウムチャネルに対する抑制作用も弱くので、循環器系への副作用はさらに出にくいとされています。

ただし、アナペインを投与する場所によっては、循環器系を制御する交感神経の伝達を止めてしまうことから、血圧低下などの副作用が出ることもあります。そのため、使用に関しては、副作用が出ても速やかな対応ができるよう、血圧、心拍数、呼吸数などを十分観察する必要があります。

現在、鎮痛薬の開発では、神経細胞に存在するナトリウムチャネルのみを抑制する薬剤が注目されています。多くの製薬会社で創薬活動が行われているのですが、まだまだ良い薬は見つかっていないのが現状です。

アナペイン(ロピバカイン塩酸塩水和物)の構造式