イトリゾール(イトラコナゾール)とはどんな薬?

イトリゾール(ヤンセンファーマ、主成分 イトラコナゾール)は、真菌という微生物によって生じる様々な病気を治療する薬です。真菌によって起こる病気として一番知られているのは「水虫」です。水虫は、白癬菌という真菌が皮膚に感染・増殖して起こる病気です。

「水虫」の治療には塗り薬を使うイメージがありますが、イトリゾールは飲み薬の水虫治療薬です。白癬菌が爪の中にはいると、爪水虫という状況になります。爪の中に入り込んでしまった白癬菌は、塗り薬では駆除することができません。そのため、イトリゾールのような内服の水虫治療薬が必要となります。

真菌は、他にも呼吸器や消化器、泌尿器や神経に入り込んで病気を起こすことがあります。しかし、これらの臓器で真菌が暴れまわるのは、主に免疫力が低下した状態(骨髄移植や臓器移植を受け、免疫抑制剤が投与されている時)です。このような状態を深在性真菌症とよんでおり、重篤な症状を起こすことがあります。イトリゾールは、深在性真菌症の治療にも用いられます。

真菌とは、カビの仲間の総称です。細菌と真菌とは、同じ菌という漢字がついていますが、この2つは全く異なる生物です。そのため、細菌と真菌の構造は異なります。例えば、細菌には細胞の表面に細胞壁という構造がありますが、真菌にはありません。このことから、細菌用の薬(いわゆる抗生剤と呼ばれる薬)が、真菌に効果を示さないことがあります。抗生剤の中には細胞壁を作れなくすることで細胞を殺す作用を持つものがあります。しかし、真菌には細胞壁がないので抗生剤は効果を示しません。

真菌は、細菌に比べるとヒトの細胞に近い性質を持っています。細菌に対する薬を作るときは、ヒトとの細胞の違いが大きいので、その違いをついてヒトには安全で細胞には毒となるような薬を作ることができます。しかし、真菌に対する薬を作る場合は、ヒト細胞との違いが小さいので、安全性の高い薬が作りにくくなっています。塗り薬を作る場合には、皮膚の一部だけに薬を投与することになるので、それほど副作用を気にする必要はありません。しかし、イトリゾールのような内服薬になると、いかに安全な薬にするかというところで工夫が必要になってきます。

イトリゾールは、真菌の細胞膜を作るために必要な物質「エルゴステロール」の合成を止める働きを持っています。エルゴステロールの合成を止められた真菌は、細胞膜を作ることができないので、死んでしまいます。このエルゴステロールは、真菌には共通して見られる物質ですが、ヒトには存在しません。そのため、エルゴステロールの合成をとめるイトリゾールは、真菌には毒ですがヒトの細胞には無害であると考えられます。

イトリゾールは、爪の成分であるケラチンとくっつきやすいため、飲み薬として投与しても爪や皮膚に届きやすい性質を持っています。そのため、イトリゾールは、爪にいる白癬菌に対しても強力な抗真菌活性を示します。イトリゾールは、爪白癬の場合、[1週間服薬+3週間休薬]を3回繰り返すという3ヶ月間の「パルス療法」を使うことが認められています。通常の飲み薬では半年程度の服薬が必要ですが、イトリゾールのパルス療法を用いることで、治療期間の短縮が可能です。

イトリゾールは、肝臓にある薬物代謝酵素CYP3A4(薬物代謝:薬の作用を消失させたり体外に排出させやすい構造にするために、体内で薬の構造が変化すること)の働きを阻害します。CYP3A4は、様々な薬の薬物代謝に関わっています。そのため、CYP3A4で代謝される薬物は、イトリゾールと一緒に飲むと薬物代謝が阻害され、薬の効果が強くでて体に悪影響を与えます。イトリゾールと一緒に飲んではいけない薬(併用禁忌薬)としては、ハルシオン(睡眠薬)、リポバス(高脂血症薬)、カルブロック(降圧薬)、レビドラ(ED治療薬)、プラザキサ(抗血小板薬)などが挙げられます。これらの併用禁忌薬については、薬剤が処方される時に医師や薬剤師から与えられた指示に従うようにしてください。

参考記事:塗り薬の爪白癬治療薬

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


イトリゾール(イトラコナゾール)の構造式