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ヘルベッサー | 病院でもらった薬の値段TOP

ヘルベッサー(塩酸ジルチアゼム)

ヘルベッサー錠30
 狭心症の場合、1回30mg 1日3回復用
薬価1日あたり35.7円(1錠 11.9円)
2017年6月現在

ヘルベッサー(田辺製薬、主成分塩酸ジルチアゼム)は、日本発の国際的に通用する薬、第一号(1974年)でしょう。ヘルベッサーには、私も思い入れがあるのでちょっと長くなりますが紹介します。

 へルベッサー(ジルチアゼム)はもともと抗不安薬を作る目的で合成された化合物だったのですが、たまたま犬の循環器系の実験に用いたところ血管を拡張する作用を示し、血圧を下げる薬であることが発見されました。このような、偶然の出来事から優秀な薬が発見されることを『セレンディピティー』と呼びます。薬の開発で『セレンディピティー』はよくおこります。というか、世の中で画期的と呼ばれる薬の多くが、『セレンディピティー』によって発見された化合物に、人間が手を加えて薬にするというというパターンで得られています。

 ヘルベッサー(ジルチアゼム)を発見したのは、会社に入って2年目の研究員だったそうです。会社に入ってもう10年という私にも『セレンディピティー』がおこらないかなぁといつも思っています(そういうことを考える人には起きないのでしょう)。
 

 しかし、現在は理屈で薬を作ろうというのが流行しており(作用メカニズム指向)、ヘルベッサー(ジルチアゼム)でみられた『セレンディピティー』のような現象は起こりにくいかもしれません。私の薬作りの恩師も『丸ごとの動物でのいろいろな作用を見ることが大事だ、理屈では木を見て森を見ずになってしまうことがある』といつも言っていました。ヘルベッサーの場合は、血管を拡張するという性質から出発し、薬をつくってからヘルベッサーをツールにして作用メカニズム(カルシウム拮抗作用といいます)を見いだした点で、森をみてから木を見たという典型例だと思います。
 

 私にとっては、ヘルベッサーという商品名よりジルチアゼムという一般名の方が、なじみがあります。私の出身大学の薬理学講座は、4年生で配属されると、最初の研修として『未知検体実習』というのが行われていました(いまでもやってるかな?)。検体が入ったチューブを各自がもらい、その薬が何かを当てるという実習でした。薬理学的方法しか使うことは許されず(NMRなどの分析器具をつかうのはだめ)、期間は2か月くらい。最後に実験発表会&打ち上げの飲み会がありました。
 

 2ヶ月間ラットの血圧を測ったり、血管や腸管を取り出して、いろいろな物質によっておこる収縮に対する抑制作用を調べたり、始めての実験ばかりでとても楽しめました 。実験結果&ヒント(先輩の実験に、自分の検体を加えてもらったり)から、この粉末はカルシウムによる血管、腸管収縮を抑制し、血圧を下げる薬だとわかりました。ジルチアゼムをはじめとするカルシウム拮抗薬はこのような性質を示します。そこまでの実験で、自分の検体はカルシウム拮抗薬だという結論に達しました。じつはそれだけのデータでは、カルシウム拮抗薬と断定することは出来ないのですが(受容体結合試験という試験が必要)、発表会の最後に、自分の検体がカルシウム拮抗薬のジルチアゼムとわかったときにはすごくうれしかったのが印象に残ってます。

 ヘルベッサーは、今でも頻用される優れた薬剤です。しかし、ヘルベッサーの薬価&売り上げは減少しています。薬価というのは、普通定期的に改訂され、その度に薬価は安くなります。ヘルベッサーは古い薬なので、薬価は安くなります。また、しかし、それ以外にもヘルベッサー売り上げ減少には原因があります。

 「カルナース」「クラルート」「クラルートR」「コーレン」「コロヘルサー」「コロヘルサーR」「サンライト」「ジルベイト」「セレスナット」「ナックレス」「パゼアジン」「パレトナミン」「ヒロスタスR」「フロッティ」「ヘマレキート」、「マルムネン」「ミオカルジー」「ヨウチアゼム」「ルチアノン」。これらの薬はいずれも塩酸ジルチアゼム製剤で、ヘルベッサーを開発した田辺製薬以外の会社から発売されています。

これらの薬は、『ジェネリック医薬品』と呼ばれており、最近注目を集めています。これらの『ジェネリック医薬品』の売り上げが、ヘルベッサーの売り上げを押さえる要因になってます。『ジェネリック医薬品』とは、ある薬(例えばヘルベッサー)の特許が切れると同時に、全く同じ成分(ジルチアゼム)の薬を多くの企業(中小企業も多い)が、それぞれ違う名前で開発して売り出す薬のことです。『ジェネリック医薬品』とは、アメリカで使われている呼び方で、日本の業界用語では『ゾロ』といわれてます。『ゾロ』という呼び方は、医薬品の特許切れと同時にゾロゾロ発売されることからついたといわれています。

 以下では、薬と特許について説明します。普通、ヘルベッサーなどの新薬を開発するときにはその化合物(ジルチアゼム)についての特許を取得するので、他の会社は同じ化合物および特許に抵触する類縁化合物の開発はできません。このような新薬を俗に『ピカ新』と呼んでいます。『ピカ新』は薬価も高いので、売上高が高くなります。一方、他の製薬会社は、特許の抜け道をさがして同様な化合物を作り、新薬として売り出します。これを、『ピカ新』のあとにゾロゾロ出てくることから『ゾロ新』と呼びます。『ゾロ新』で売上高をあげるには、『ピカ新』との違いを示しつつ2番手、3番手を目指さなくてはなれません。

 一方、『ジェネリック医薬品』は特許が切れた時点から売りだされ、薬価も低くなります。『ジェネリック医薬品』が出てくると、『ピカ新』は『ピカ新』でなくなり、『ジェネリック医薬品』に売り上げを奪われることになります。

 『ジェネリック医薬品』の薬価は安く設定されます。医療費の節減にもつながることから、最近では厚生労働省も『ジェネリック医薬品』の使用を促進するスタンスにたっているようです。

 去年、メバロチンの特許が切れたときにも、たくさんの『ジェネリック医薬品』が発売されたようです。『ジェネリック医薬品』は『ピカ新』から生まれます。私も、最後には『ジェネリック医薬品』になるような、良い薬を作りたいと思います


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