サリドマイドとはどんな薬?

サリドマイドは、もともとは睡眠薬として発売されましたが、服用した妊婦から奇形児がうまれる(催奇形性)という重大な副作用がありました。そして、この副作用がわかった後も薬剤が使用され続けたため、多数の被害者が生じました(サリドマイド薬害事件)。

サリドマイドは医療現場から姿を消しましたが、その後の研究から多発性骨髄腫という血液がんや、難治性の皮膚炎である「らい性結節性紅斑」に対し、サリドマイドが治療効果を示すことがわかりました。現在では、厳重な管理の元で、サレド(藤本薬品)という商品名で用いられています。

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サリドマイド薬害事件

サリドマイドは、もともと西ドイツの製薬会社グリューネンタールによって開発された催眠作用を持つ化合物で、日本を含む多数の国々で販売され(日本での商品名は「イソミン」)、即効性の睡眠作用をもつことから妊婦のつわりの治療薬としても用いられました。

しかし、サリドマイドには、胎児の手足の形成を妨げ奇形をおこすという「催奇形性」がありました。この副作用は、妊娠中に服用した母親から、手足が異常に短いアザラシ肢症とよばれる奇形を持つ子供(サリドマイド児)が生まれたことで発覚しました。

しかも、催奇形性に関する情報を製薬会社が知ってからも、適切な情報提供や薬剤の回回収が行われなかったため、多くの妊婦がサリドマイドを服用しつづけ、その結果、1960年周辺で多数の奇形児が生まれ、社会的問題となりました(サリドマイド薬害事件)。サリドマイド薬害の被害者は、全世界で約3900人とされており、日本国内でも大きな被害がありました。

薬害事件の後、サリドマイドの販売は中止されました。また、このような事態を再発させないため、医薬品開発では、生殖毒性試験(妊娠中の動物に新薬候補を投与し、胎児に奇形が生じないかを調べる試験)が重要な位置を占めるようになり、薬作りに大きな影響を与えました。


サリドマイドの復活

その一方で、サリドマイドが販売中止になってからも、医療応用のための研究は続きました(このような研究ができたのは、催奇形性以外には安全性に問題がなかったからだと思われます)。皮膚疾患の患者の痒みを和らげるという効果の発見(1965年)以降、サリドマイドのさまざまな生理作用が知られるようになりました。

例えば、サリドマイドは血液がんである多発性骨髄腫のがん細胞に作用して、増殖を止めたり細胞死を起こします。また、炎症に関わるサイトカインというタンパク質(IL6やTNFα)の産生を抑制します。

これらの生理作用から、サリドマイドは多発性骨髄腫やハンセン病患者における重い皮膚炎に効果を示すと考えられ、最終的には臨床試験で有効性が確認されました。多発性骨髄腫やらい性結節性紅斑は、治療薬の開発が進んでいない病気でした。薬害で大きな被害を出したサリドマイドが、再び新薬候補として注目を浴びたのです。

臨床試験の結果を受け、複数の国々(アメリカ、ニュージーランド、オーストラリアなど)で、サリドマイドの使用が正式に認められました。日本でも利用したいという要望が起こり、藤本製薬が販売のための手続き(承認申請といいます)を行いました。その結果、サリドマイドは「サレド」という商品名で発売できるようになりました。過去の薬害被害を繰り返さないように、サレドの処方については、使用前の妊娠有無の確認など厳しい使用基準が策定されています。

サリドマイドがどのような生体内分子と相互作用して生理作用を示すのかについては、実はまだよくわかっていません(候補となる生体内分子が見つかりつつある、というところです)。サリドマイドの奇形発生に関与する分子と、上記作用に関与する分子が異なるとすれば、「奇形発生の可能性が低いサリドマイド」の開発も可能かもしれません。


サレド(サリドマイド)の構造式