タムスロシンとはどんな薬?

タムスロシンは、前立腺肥大症でおこる排尿困難(おしっこが出にくくなる症状)の治療薬です。前立腺肥大症では、尿の通り道である尿道が狭くなり、膀胱から尿が十分に排出されないので、つねに尿意を感じることになり非常に不快です。

タムスロシンは、前立腺や尿道の筋肉を緩め、尿の流れを良くすることで排尿困難を改善します。最初は、ハルナール(アステラス製薬)という商品名で発売され、現在では多くの会社からジェネリック医薬品が販売されています。

目次

タムスロシンの作用メカニズム

前立腺は男性特有の臓器で、尿道(膀胱から体外への尿の通り道)を取りまく構造をしています。前立腺の構造はちくわに例えられ、身の部分が前立腺(の腺組織や筋肉)、中を通る穴が尿道というイメージです。前立腺の生理的な役割は不明であり、普通の人にとっては、病気になってはじめて前立腺の存在を意識するといってもよいでしょう。

タムスロシンが使用される前立腺肥大症は、中年以降の男性に多く見られる病気です。何らかの原因で前立腺の腺組織や筋肉が大きくなり、組織が尿道を押さえつけたり尿道や前立腺の筋肉が収縮して尿道が狭くなり、尿が通りにくくなります。ちくわの例でいうと、身が大きくなって穴が狭くなるようなものです。

この状態を排尿困難といい、トイレを済ませても尿が膀胱に残る状態(残尿)が起こると尿意が続くことになり、非常に不快な状態です。また、夜間も含めたトイレの回数が増えるので、睡眠不足や仕事上の不便さが生じて生活の質が下がります。

タムスロシンは、前立腺や尿道の筋肉の収縮力を低下させて尿道を広げ尿の通りをよくします。ちくわに例えると、身が縮むのを防ぎ、狭くなった穴を広げるのです。交感神経から放出されるアドレナリンという生体内物質が、前立腺や尿道の筋肉表面にあるアドレナリンα1受容体というタンパク質を活性化すると、筋肉が収縮し尿道が狭くなります。タムスロシンは、アドレナリンα1受容体に結合してアドレナリンの働きを止め、前立腺や尿道の筋収縮を弱めて尿道を広げ、尿の通りをよくして前立腺肥大症の症状を改善します。


タムスロシンが生まれるまで

タムスロシンのように、アドレナリンα1受容体の働きを止めれば排尿困難を改善できるというアイデアは古くからあり、プラゾシン(商品名ミニプレス)などの薬剤(アドレナリンα1受容体拮抗薬)が治療薬として用いられていました。しかし、排尿困難に使用する場合には、起立性高血圧という副作用が問題となっていました。

アドレナリンα1受容体は、全身の血管の筋肉にもあり、交感神経による血管収縮と血圧上昇に関与しています、実際、プラゾシンは血管の収縮力を低下させ血液の流れをよくして血圧を下げるので、高血圧治療薬として使われています。

一方で、高血圧ではない人にとっては、血圧上昇の仕組みを必要以上に低下させることになります。立ち上げるときには、一時的に血圧を上げて脳に血液を送らなくてはいけませんが、プラゾシンを服用しているとこの仕組がうまく働きません。この結果、立ち上がるときに脳に血液が十分送られず、立ちくらみがおこります。これを起立性高血圧といいます。

起立性高血圧という副作用がなく排尿困難のみを改善できるアドレナリンα1受容体拮抗薬には患者さんのニーズがあると考えられ、山之内製薬(現アステラス製薬)において、研究開発が始まりました。

とはいえ、どうすれば前立腺と尿道の筋肉だけに作用する化合物が得られるのは誰にもわかりません。そこで、高血圧治療薬として合成されたアドレナリンα1受容体拮抗薬の中から、動物に投与したときに血圧を下げにくい化合物としてタムスロシンが選抜され、臨床試験の結果から「ハルナール」という商品名で発売されたのです。タムスロシンは前立腺のアドレナリンα1受容体に選択的に作用することが分子レベルで解明されたのは、臨床試験で起立性副作用が起きにくいことが示された後の話です。

ハルナールの登場以前の前立腺肥大症治療薬は、プラゾシンのようなアドレナリンα1受容体拮抗薬か、前立腺を小さくする作用を持つ抗男性ホルモン薬でした。しかし、高弾性ホルモン薬は、排尿障害改善効果がでるのに時間がかかり、しかも副作用として男性ホルモン作用抑制による性機能障害がおこるので、使いにくい薬とされていました。

ハルナールは、新しいメカニズムを有する即効性かつ安全性の高い前立腺肥大症治療薬としてデビューし、多くの患者さんに使用される標準治療薬となりました。いまでは、多くの会社から安価に使用できるジェネリック医薬品が販売されています。


ハルナール(塩酸タムスロシン)の構造式