エポジン(中外製薬、主成分遺伝子組み換えヒトエリスロポエチン)は、慢性腎臓病の患者さんに生じる貧血(腎性貧血)を治療するための薬です。腎障害が重症で人工透析が必要になってた患者さんにも使用する事が可能です。主成分であるエリスロポエチンは、腎臓で産生されるタンパク質で、赤血球の生産を高める役割を持ちます。腎臓の働きが悪くなるとエリスロポエチンを作る能力が下がるので、足りない分を補充する役割を果たす薬剤がエポジンです。
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私たちが使っている薬は、多くが有機合成によりつくられた人工化合物です。しかし、病気によっては、足りない生理活性物質を補充することが最大の治療法だったりすることがあります。この場合、生理活性物質をそのまま薬として使うことがあります(糖尿病でのインスリン注射などがわかり易い例です)。エポジンは、この考え方に従い、生体内タンパク質であるエリスロポエチンを薬にしたものです。
慢性腎不全で生じる貧血(腎性貧血)は、人工化合物での治療は現在のところ出来ません。腎性貧血は、腎臓が分泌するエリスロポエチンの量が減少することで起こります。エリスロポエチンは、赤血球をつくる役目を持つ骨髄細胞(骨の中にあります)のエリスロポエチン受容体というタンパク質を刺激して、赤血球の産生を増加させます。長期間エリスロポエチンが分泌されず、赤血球の寿命(120日)超えても赤血球の産生がないと、赤血球の数は減少し貧血となります。
現在、エリスロポエチン受容体を刺激する人工化合物については、開発の目処は立っていません。そのため、現在用いられているのは、生体内の成分であるエリスロポエチンを注射により補充するという方法です。ただし、エリスロポエチン自身を生きた人から取り出すわけには行きません。そこで、遺伝子組み換え技術によって、細胞にエリスロポエチンタンパク質を大量に作らせます。こうして作られた薬剤がエポジンです。
エポジンは、ヒトのエリスロポエチン遺伝子を導入した細胞にエリスロポエチンを大量に発現させ、これを生成して取り出し注射剤としたものです。エポジン投与により、赤血球数が増加して貧血状態が改善し、酸素供給がスムーズになります。酸素運搬能を高めるという効果からドーピングに使われることもあり、スポーツ界では違反薬物として認識されています。
エリスロポエチンと同じ作用を持つ人工化合物が出来ない最大の理由は、受容体の構造にあると考えられています。受容体は2つの部分が結合することで初めて機能し、エリスロポエチンは大きい分子なので、これら2つの部分を橋渡しし結合させることができます。一方、小さな合成化合物では、橋渡し作用をまねするのが難しいのです。
エリスロポエチン受容体を刺激する人工化合物ができれば、注射剤でなく飲み薬で治療することが可能となり、患者さんの不便が解消されます(エリスロポエチンはタンパク質なので、飲み薬だと消化管で消化されて効果がでません)。まだまだ道のりは遠いのですが、基礎的な研究は進んでいます。
[この記事を書いた人]
薬作り職人
国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。
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