バクシダール(ノルフロキサシン)とはどんな薬?

バクシダール(杏林製薬、主成分ノルフロキサシン)は、ニューキノロン剤と呼ばれるタイプの抗菌剤です。ブドウ球菌、レンサ球菌、肺炎球菌、淋菌、炭疽菌、大腸菌、赤痢菌、緑膿菌、カンピロバクターなどの広い範囲の細菌に対して抗菌作用を示し、呼吸器、尿路、皮膚、腸、耳、鼻などの臓器の感染症の治療薬として用いられます。バクシダールは1984年発売開始という非常に古い薬で、現在は使用頻度も少なくなりましたが、抗菌剤の歴史の中では非常に重要な位置付けの薬剤です。

主成分であるノルフロキサシンは、細菌のDNAジャイレースという酵素タンパク質の働きを止める作用を持っています。

細菌が増殖するためには、自分自身の遺伝子情報であるDNAを合成しなくてはいけません。細胞内で、DNAは長い「ひも」が折り畳まれた形で存在しているので、紐の中身をコピーするには、折り畳まれた部分がじゃまになるときがあります。細菌は、DNAジャイレースを用いてひもを切り、ほぐした後につなぎ合わせるという方法で形を整えコピーしやすくしています。

ノルフロキサシンは、DNAジャイレースの働きを止め、細菌のDNA合成をうまく行えないようにして抗菌作用を示します。ヒトにもDNAジャイレースと似た働きの酵素はありますが、全く異なる分子なので、ノルフロキサシンは作用を示しません。したがって、バクシダールは、細菌の増殖だけを選択的に止められます。

ペニシリンなどの抗生物質は、生物(カビなど)から発見された天然物もしくは天然物に手を加えた化合物です。これに対し、バクシダールなどのニューキノロン剤は、化学合成で得られた人工化合物に抗菌作用が見出され、改良を続けることで誕生しました。このため、ニューキノロン剤は、「合成抗菌剤」と呼ばれます。


「ニュー」キノロン剤の出発点となる「オールド」キノロン剤は、ナリジクス酸という化合物です。マラリア治療薬の開発の過程で、ナリジクス酸に抗菌作用が発見されたことが、そもそものスタートでした。

ナリジクス酸から改良された化合物をキノロン剤と呼びます。キノロン剤の弱点は、抗菌作用を示す細菌の種類が少ない(「抗菌スペクトルが狭い」)ことでした。また、耐性(細菌に薬剤抵抗性がついて効かなくなる)が起きやすいとか生体内ですぐ分解され、呼吸器などの臓器に分布しにくいという欠点もありました。

そこで、まずは抗菌スペクトルを広げることを目標として多数の化合物が合成されました。キノロン剤の構造は、有機合成により形を変化させやすかったこともあり、さまざまな部分構造を何通りも組み合わせることで、次第に抗菌スペクトルが広い化合物が出てくるようになりました。

そして、最終的に選ばれたのがバクシダールの主成分であるノルフロキサシンでした。一番の強みは、抗菌スペクトルが広く、これまでの抗生物質が効きにくかった緑膿菌への抗菌作用が強い点でした。それに加え、耐性が起きにくく、全身臓器へ分布するという強みも合わせて得られました。

ノルフロキサシンは、それまでのキノロン剤から大きな進歩を遂げたという意味をこめ「ニューキノロン剤」と呼ばれることになりました。バクシダールは、日本発の世界発ニューキノロン剤なのです。自然からの贈り物である抗生物質と対等に勝負できる人工化合物を人間自身が作り出せたという意味で、ニューキノロン剤は抗菌剤の歴史の中に残る大きな足跡だと思います。

バクシダールは、国内だけでなく海外においても高く評価され、現在でも100カ国以上で用いられています。また、バクシダール以降も様々なニューキノロン剤が開発され、特に日本の製薬会社の貢献が非常に大きくなっています。


バクシダール(ノルフロキサシン)の構造式