クラビット、タリビッド | 病院でもらった薬の値段TOP

クラビットとタリビッド
(レボフロキサシンとオフロキサン)

前回ニューキノロン系抗菌剤を紹介しましたが、この分野では日本の力が強く、優れた薬剤が続々と登場しています。その中でも、代表的な薬は「クラビット」(第一製薬、主成分レボフロキサシン、薬価 100mg錠 = 121.4円)です。クラビットの作用は強力で、一般の細菌から、炭疽菌、ペスト菌などの、生物テロに用いられる可能性がある細菌にまで殺菌効果を有することが分かっています。

クラビットができる過程では、「タリビッド」(第一製薬、主成分オフロキサン、薬価 100mg錠 = 82.6円)という薬が重要な役割を果たしました。タリビッドは、第一製薬が1980年代に見いだしたニューキノリン系抗菌剤で、優れた抗菌活性と体内動態(薬が体内に分布する性質)を示す薬でした。

で、クラビットは、タリビッドの抗菌活性の強さが約2倍になり、しかもタリビットの副作用が弱くなった薬です。

実は、抗菌活性や副作用の差については、きちんとした理由があります。
タリビッドは2つの化合物が1;1で混ざった混合物であり、クラビットはそのうちの一方の化合物であるというのがその理由です。

タリビッドを構成する2つの化合物は、S(-)オフロキサンとR(+)オフロキサンという化合物であり、クラビットはこの中のS(-)オフロキサン(=レボフロキサシン)という化合物です。
S(-)オフロキサンとR(+)オフロキサンの抗菌活性を調べると、S(-)オフロキサンのみが強い抗菌活性を示し、R(+)オフロキサンは抗菌活性を示しませんでした。また、副作用について調べると、S(-)オフロキサンでは強い副作用を示さないが、R(+)オフロキサンは強い副作用を示すことが分かりました。

つまり、クラビット(=S(-)オフロキサン)は、抗菌活性を持ち副作用を示さないというタリビッドのいいとこ取りの薬なのです。

S(-)オフロキサンとR(+)オフロキサンの関係は、有機化学の用語で「光学異性体」と呼ばれます。S(-)とかR(+)とかは、化合物の立体構造を示すための記号で、この二つの化合物が右手と左手の関係、つまり「見た目は同じなのに重ねられない」ということを表しています。
 そのため、タリビッドを右手と左手、タリビッドのターゲットとなるタンパク質を右手用の手袋に例えることができます。右手と左手、同じように見えても右手用の手袋には右手しか入らず、左手が入りません。このように光学異性体のそれぞれの化合物は生体のタンパク質について全く異なる作用を示すことが多いのです、

通常の有機化学反応では、タリビッドの様に複数の光学異性体が生じることが普通です。そして、光学異性体の片方のみを作る反応を「不斉合成反応」といいます。不斉合成反応は非常に難しく、合成ルート、触媒などの条件を決めるのは一種の職人芸でもあります。

クラビットの開発では、S(-)オフロキサンに薬理活性があることを見いだした薬理屋と、その合成法を開発した優秀な合成屋さんのチームワークがうまく働いたよい例だと思います。見習いたいものです。

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構造式
レボフロキサシン


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