アデホス(アデノシン3リン酸)とはどんな薬?

アデホス(興和、主成分アデノシン3リン酸2ナトリウム)は、眼精疲労や心不全、メニエール病などさまざまな病気に用いられる薬です。有効成分であるアデノシン3リン酸、略してATPといえば、生物系の授業を受けたことがある人なら聞いたことがある名前だと思います。

生物の授業では、ATPは体内のエネルギー源ということになっています。炭水化物も、脂肪も、様々な酵素の働きによって、最終的にはATPにエネルギーを供給します。

ATPは、その構造のなかにあるリン酸基という部分にエネルギーを蓄えています。詳しく言うと、ATPのリン酸基が2個であるアデノシン2リン酸(ADP)にリン酸が結合することでATPとなるのですが、リン酸基結合の時に生じるエネルギーを蓄えます。このリン酸が外れ、ADPにもどるときに、エネルギーが放出されます。

そして、このエネルギーを、生体内での様々な化学反応に使用します。この時放出されるエネルギーの余った分が、体温の元になります。このように、ATPは体に無くてはならないものです。ここまでは、生物の時間にでてくる話題。

ここ以降は、薬としてのATPつまりアデホスとしての話題です。

アデホスは、神経障害や難聴などの症状改善に用いられます。簡単に言うと、障害を受けた細胞に「元気を与える」作用があります。動物試験などの結果、アデホスは、末梢血管を広げることで細胞への栄養分などの供給をふやし、細胞の機能を活発にさせる、と考えられています。

この血管を広げる作用のメカニズムですが、ATPがP1受容体(ATPが結合するタンパク質)と結合して、 血管に対し拡張するような信号を出すというものです。ここでは、ATPは「エネルギー源」としての働きではなく、「血管を広げろ」という「メッセージを伝える信号」としての働き、つまり「伝達物質」としての働きをしているのです。

他にもATPが関与する生理機能は多く、最近では「痛みの伝達」に付いての関与が注目されています。このメカニズムは、神経周辺の細胞がダメージを受けると、壊れた細胞から漏れでたATPが、神経の表面にあるP2X受容体(ATPが結合するタンパク質)と結合することで、痛みの信号を生じる、というものです。ただ、アデホスを全身投与しても痛くなるという訳ではない(私も投与された経験があります)ので、痛み伝達のメカニズムについては更なる検討が必要と思われます(ATPの他に、もうひとつ別の物質が関与するとか、いろんな可能性があります)。

その他、タンパク質のリン酸化を通じて細胞内情報伝達に関与する、などATPの働きはまだまだあります。今回のATPのように、生物の教科書に書いてないことは山ほどあります。簡単な生化学や薬理学の本を見てみると、視野がぐーんと広がりますよ。

アデホス(アデノシン3リン酸)の構造式