フサン(メシル酸ナファモスタット)とはどんな薬?

フサン(鳥居薬品、主成分メシル酸ナファモスタット)は、膵臓の急性炎症(急性膵炎や慢性膵炎の悪化)や血液が凝固することで生じる重篤な疾患(汎発性血管内血液凝固症)などの治療に用いられる薬です。フサンは、生理機能に関わるさまざまなプロテアーゼ(タンパク分解酵素)の働きを阻害する作用を持ちます。

フサンの標的となる「プロテアーゼ」とは、「タンパク質を分解する酵素」のことです。タンパク質の構造は、沢山のアミノ酸が1列につながったひもに例えられます。プロテアーゼは、タンパク質の中にある特定の部位(アミノ酸配列)でひもを切断します。フサンの主成分であるナファモスタットは、複数のプロテアーゼに対して強い抑制作用を持っています。

プロテアーゼの中には、細胞機能のスイッチの役割を持つ酵素もたくさんあります。もともと不活性なタンパク質をプロテアーゼが分解すると、生理活性を持つようになるのです。このようなプロテアーゼの働きは、生きていくために重要な反応です。

しかし、一つ間違えると、プロテアーゼは体にとって非常に危険なものにもなりえます。それでは、フサンのような薬を使ってプロテアーゼの活性の働きを抑えなければならないのはどういう状況なのでしょうか?


一つは、膵臓(すいぞう)の炎症である膵炎の場合です。膵臓は、トリプシンなどのプロテアーゼを分泌します。もともとトリプシンは、食物中のタンパク質を切断し、消化管から吸収されやすくする役目を持っています。

しかし、トリプシンが膵臓自身や消化管の細胞を消化し、強い炎症を起こすことがあります。これを急性膵炎といい、適切な処置がされないと死につながる非常に危険な病態です。フサンは、トリプシンの作用を抑制する作用があるので、膵炎での臓器障害を止めるために使用されます。

もう一つは、血管の中の血液が急激に固まる場合です。異物や空気に触れた血液は自然に固まりますが(血液凝固)、これには血液凝固因子というプロテアーゼにより、血液凝固に必要なスイッチが次々とオンになるからです。たくさんの血液凝固因子が、将棋倒しのように次々と分解されていくことで、速やかに血液は固まります。

出血時には、血を止めなくてはいけないので、この働きは非常に有効に働きます。しかし、原因がよくわからないのですが、出血がなくてもプロテアーゼのスイッチが入ることがあります。すると、何もしないのにあちこちの血管で血液が固まってしまいます。このような状態を汎発性血管内血液凝固症と呼びます。

汎発性血管内血液凝固症では、全身の血管内に固まりができて詰まると、そこからに血液がいきわたらず、非常に危険な状態となります。そこで、血液凝固因子の働きをおさえ、血液凝固のプロセスを止めるためにフサンを投与します。

フサンは、膵炎と汎発性血管内血液凝固症という一見全く異なる病気に使用されます。その理由は、プロテアーゼという共通の酵素が関与していることに加え、ナファモスタットが異なるプロテアーゼに対し強い阻害活性を持つからです。細菌は、一つの酵素に選択的に働く化合物が好かれますので、フサンのような薬剤は出にくいかもしれません。


フサン(メシル酸ナファモスタット)の構造式