ダーゼン(武田薬品工業、主成分セラペプターゼ)、痰や鼻水の粘りを取り、鼻づまりなどの症状を抑えたり、風邪による炎症を抑える作用があるとされ、長い間臨床で使われてきました。しかし、2011年2月、有効性の再評価のために実施された臨床試験で効果が確認できなかったため販売中止となりました。今では、ダーゼンは市場から姿を消しています。
そもそもダーゼンとはどんな薬だったのでしょうか?
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ダーゼンの主成分のセラペプターゼは、細菌(Serratia marcescens)が産生するタンパク質分解酵素で、痰や鼻水のネバネバの原因となるタンパク質を分解してサラサラにします。また、炎症や痛みの原因となるブラジキニンというペプチド(数個のアミノ酸からできた小さなタンパク質)を分解して炎症を抑制します。
しかし、セラペプターゼを飲み薬としたダーゼンについては、その作用メカニズムや有効性について、いくつもの疑問が挙げられてきました。
この疑問については、明確な回答があります。ダーゼンの錠剤には特殊な細工がしてあり、胃の中では溶けず腸に入って初めて錠剤が溶けてセラペプターゼが放出されるようになっていました。このような製剤を「腸溶錠」といいます。
ダーゼンの添付文書では、口から飲ませたセラペプターゼは、(メカニズムは不明ですが)血液中に吸収され全身に分布するとされていました。しかし、食物に含まれるタンパク質は、消化酵素によって1つ1つのアミノ酸にまでバラバラにされてから吸収されます。消化管に特別な仕組みがないと、アミノ酸よりもはるかに大きななタンパク質は吸収されない、というのが、薬作りの世界での常識です。
全身に運ばれたセラペプターゼが、いろんなタンパク質を無差別に分解するというのは、体にとって良くありません。ただ、セラペプチターゼがどのようなタンパク質を分解するのか、という情報についてはダーゼンの添付文書を見てもよくわかりません。血液凝固に関するタンパク質を分解するとの記述はありますが、目立った副作用は認められません。状況証拠から、なんでもかんでもバラバラにすることはないと判断せざるを得ないという感じです。
今となってみれば、ダーゼンにはさまざまな疑問点/不明点がでてきます。しかし、添付文書では、「本剤の体内での作用機序はなお解明されていない点も多く、また、用量・効果の関係も必ずしも明らかにされていない」というところで話が終わっています。
ダーゼンは、正直なところ「とにかく患者の症状に効くのであればよいではないか」ということで使われていたのかもしれません。しかし、再評価時の臨床試験で有効性が確認できない、という結果は強烈でした。
ダーゼンは50年近く使われてきた薬ですが、代わりの薬剤が複数ある中で効かないと判断されたなら、表舞台から身を引かざるを得ないのは仕方がなかったと思います。
[この記事を書いた人]
薬作り職人
国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。
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