各製薬会社は「コレステロール低下薬」でのバトルを繰り広げています。長いこと首位に君臨していたメバロチンは,特許切れによるジェネリック薬の登場があって売り上げが減少。首位をリピトール(ファイザー、アステラス製薬,主成分 アトルバスタチンカルシウム水和物)に明け渡しました。現在、高コレステロール血症(高脂血症)治療薬の主流は,リピトール,メバロチンに代表されるHMGーCoA還元酵素阻害薬です。リピトールのターゲットであるHMG-CoA還元酵素という酵素は,コレステロールが生体内で合成されるときに最も重要な酵素です。
スポンサーリンク
リピトールの作用機序はHMGーCoA還元酵素の抑制です。HMG-CoA還元酵素の働きが抑制されると、生体内でのコレステロール産生が抑制されます。その結果血液中のコレステロール値が低下するというわけです。HMG-CoA還元酵素阻害剤は、副作用が少なく、確実に効くということで、広く使われるようになりました。
さて,コレステロール値が高い人が,リピトールなどを用いて血液中のコレステロールを低下させる必要があるのはなぜでしょうか。
「血中コレステロール値が高ければ,動脈硬化がおこる。動脈硬化の人は心筋梗塞や脳梗塞がおきやすい。よってコレステロール値を低下させるリピトールのような薬があれば心筋梗塞や脳梗塞の発生を抑制できる。」という主張があります。
実は、現在リピトールの効能は高コレステロール血症だけ,つまりコレステロールを下げる効果だけが認められています。つまり、上記の主張は、あくまで仮説です。そこで,この仮説を実験や臨床試験によって検証することが必要です。
「血中コレステロール値が高い場合、動脈硬化になりやすい」という主張は、実験動物レベルで証明することが可能です。餌を工夫して、血液中の高コレステロール値を保ったウサギでは、動脈硬化の発現が確認されています。そして、この動脈硬化をリピトールが抑制することも確認されています。
次に、「動脈硬化の人は心筋梗塞や脳梗塞になりやすい」の部分。これは、心筋梗塞や脳血栓の発症メカニズムを考えれば容易に確認することが出来ます。動脈硬化により,血管内にプラークという固まりがくっつき,血管を狭める、詰まるのです。実際、心筋梗塞の場合、梗塞部の血管は動脈硬化を起こしていることが多いです。
で、最後の部分。「コレステロール値を低下させるリピトールのような薬があれば心筋梗塞や脳梗塞の発生を抑制できる」については、ヒトでの臨床試験が必要となります。しかし、この臨床試験は長い年月と多くの症例が必要となります。つまり、この臨床試験の結果が出るのを待っていると、いつまでたっても薬が出来ないという状況になります。
というわけで、製薬会社がとった方法は、「まず高コレステロール血症の治療薬として開発する。薬が承認され、実際に使われるようになってから、心筋梗塞や脳梗塞についての大規模臨床試験を始める」というものでした。
これまでに、リピトールを始めとした様々なHMG-CoA還元酵素阻害薬について,大規模な臨床試験が行われていますが、この中のかなりの数が、販売後に行われています。現在も、臨床試験が行われており、心筋梗塞や脳梗塞の発症率や副作用の発現率についてのデータが得られつつあります。
リピトールを始めとするHMG-CoA還元酵素阻害薬の「真の薬効」が示される日が、早く来るといいですね。
[この記事を書いた人]
薬作り職人
国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。
スポンサーリンク
スポンサーリンク