サノレックス(マジンドール)とはどんな薬?

サノレックス(富士フィルムファーマ、主成分マジンドール)は、食欲を抑制する作用をもつ食欲抑制剤で、重症の肥満症患者が行う運動療法や食事療法での現用効果を高めるために使用されます。主成分のマジンドールは、脳内の食欲やエネルギー消費に関わる部位に作用して、食欲を低下させ食事量を減らすことで、肥満症治療における減量効果を高めます。サノレックスは安全性の問題から米国では使用されなくなりました。

食欲のコントロールは、脳の視床下部と呼ばれる部位にある満腹中枢(満腹感の発生)・摂食中枢(空腹感・食欲の発生)という部位が担当しています。食べ物を食べて栄養分が血液中に吸収されると、視床下部にあるセンサーが作動します。すると、満腹中枢が活性化して満腹感が生じ、摂食中枢の働きを低下させて食欲が低下します。

摂食中枢の活動を低下させるメカニズムには、モノアミンと呼ばれる神経伝達物質が関与することが知られています。代表的なモノアミンであるセロトニン、アドレナリン、ドパミンは、いずれも摂食中枢の神経細胞の働きを低下させます。サノレックスの主成分であるマジンドールは、モノアミンの脳内の量を増やすことで肥満症患者の食欲を低下させ、食事の摂取量を減らすことで減量の効果を高めます。

マジンドールの標的分子は、セロトニントランスポーター、アドレナリントランスポーター、ドパミントランスポーターと呼ばれる分子です。これらのモノアミントランスポーターは、神経細胞から分泌されたモノアミンを細胞内に再吸収する役割を持っています。モノアミンは神経細胞を活性化させるので、活性化した神経を元の状態に戻すために、トランスポーターはモノアミンを再吸収して量を減らします。

マジンドールは、モノアミントランスポーターの働きを止めることで、モノアミンが神経細胞に再吸収されなくします。すると、モノアミンの量が増え、摂食中枢の働きが低下するので、食欲が低下するというわけです。

この記事を書いた人
薬作り職人
薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


サノレックスのような「やせ薬」は、憧れる人が多いかもしれません。薬を飲むだけで食欲が低下して体重が減る、というのは理想のダイエットのようにも思えます。しかし、それほど世の中は甘くありません。

サノレックスの作用メカニズムは、覚せい剤であるアンフェタミンと基本的には同じです。そもそも、覚せい剤を乱用すると食欲が落ちるという現象が、マジンドール発見の引き金ともいわれています。そのため、サノレックスには、依存性(やめられなくなる)や耐性(効かなくなる)という現象が現れます。

また、マジンドールを長期間服用すると肺の血管の異常である肺高血圧症の発症リスクが高まるとされています。肺高血圧症は進行すると死亡につながる疾患なので、このリスクを下げるため、日本では3カ月を超えたサノレックスの服薬はできません。また、米国では使用自体が禁止されました。

このようにサノレックスは副作用のリスクが非常に高いため、美容のためのダイエット目的では服用できず、肥満度が非常に高く、運動療法や食事療法でも減量できない人に限定して処方されます。このような肥満症の患者さんは、全身に血液を行き渡らせるために、心臓に過度の負荷がかかります。生命に関わる心臓障害を防ぐためにも、リスクがある薬剤を使ってでも体重を落とさないといけないのです。

薬を使って楽にやせたいという気持ちは分かります。しかし、少なくとも薬で強引に食欲を落とすというやり方は、ヒトのもつ自然な欲求を無理やり抑えるので、体重低下とともにさまざまな悪影響を引き起こします。健康な人では、体重はその人の生活パターンを映し出す鏡です。薬に頼って無理矢理減量するのではなく、自分の意思で変えていくことが必要です。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


サノレックス(マジンドール)の構造式