ホクナリンテープ(マイランEPD、主成分塩酸ツロブテロール)は、気管支喘息や気管支炎、肺気腫などで気管支が狭くなって起こる呼吸困難などの症状を改善するために用いられる薬です。主成分のツロブテロールは、気管支の筋肉の収縮を弱めて気管支を広げることで空気の通りを良くして呼吸をしやすくします。ホクナリンテープは経皮吸収型テープとよばれる薬剤で、1日1回胸や背中に貼り付けることで薬剤が皮膚を通して持続的に吸収されます。飲み薬や吸入薬が使いにくい子供にも簡便に使用できます。
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気管支喘息や気管支炎では、空気の通り道である気管支に強いアレルギー反応と炎症が起こり、気管支の筋肉が収縮して激しい咳(せき)が起こります(喘息発作といいます)。このとき、気管支は狭くなり空気が通りにくくなるため酸素不足の状態になり、最悪の場合には死にいたります。呼吸困難の症状を改善するには、気管支の筋肉を緩めたまま収縮させないようにしなければいけません。
ホクナリンテープの主成分であるツロブテロールは、気管支の筋肉(平滑筋)にあるβ2 アドレナリン受容体(β2受容体)に結合し活性化させることで平滑筋を緩める作用を持っています。気管支の空気の通り道が太くなり、酸素が供給されやすくすることで呼吸困難の症状を改善します。
喘息発作の治療には、気管支平滑筋の弛緩薬が用いられますが、通常は口から吸い込む吸入薬として用いられます。呼吸困難への対応は一刻を争います。吸入剤は、薬剤を気管支に直接届けることができ薬剤の効果が速やかに現れるため、喘息発作の治療に適しているのです。
一方、ホクナリンテープはツロブテロールを染み込ませたテープを背中や胸に貼り付け、皮膚から薬剤を吸収させる経皮吸収製剤です。経皮吸収製剤の場合、薬剤は非常にゆっくりと吸収されます。ホクナリンテープの場合、皮膚にテープを貼り付けると、数時間かけて血液中にツロブテロールが吸収されます。ツロブテロールの血中濃度は約24時間一定に保たれ、この間、薬剤の気管平滑筋の弛緩作用は持続します。つまり、1日1回テープを貼るだけで、薬を十分効かすことができるのです。
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ホクナリンテープの作用時間が24時間と長いことから、寝ている間の喘息発作の抑制が可能となります。一般に、呼吸機能は夜から朝にかけて低下する(モーニングディップ)ので、喘息発作は早朝に起きやすくなります。ホクナリンテープは、気管平滑筋の収縮を長時間にわたり止めることで、早朝の喘息発作を起きにくくできるのです。
また経皮吸収製剤は、薬を口から飲めない患者さん、例えば小さい子供への投与に使えます。子供にきちんと吸入剤を使ってもらうのは、なかなか難しいものです。貼り薬であれば、確実に薬剤が体内に吸入されます。
このように同じ作用メカニズムを持つ薬剤でも、吸入剤は激しい発作を止めるため、貼り薬は発作を防ぐため・確実に薬剤を服用させるため、と使い分けがなされています。最近は、吸入する道具の改良などが進んで吸入薬が主役となりつつありますが、ホクナリンテープのようなう薬剤が必要となる場面もまだまだあります。薬は、他の商品と同じく、実際に使うシーンを想像して作られているのです。
[この記事を書いた人]
薬作り職人
国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。
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