アンプラーグ(田辺三菱製薬、主成分塩酸サルポグレラート)は動脈(主に足の動脈)が慢性的に狭くなって起こる慢性動脈閉塞症の治療に用いられる薬です。慢性動脈閉塞症では、組織への血流が悪くなって冷感や痛み、潰瘍などの症状が起こります。主成分のサルポグレラートは、血管を狭くする原因となる血管収縮や血栓(血液の塊)の発生を抑制することで、これらの症状を緩和します。
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慢性動脈閉塞症は高齢者に多く発症する病気で、動脈が狭くなり血流が悪くなることでさまざまな症状を起こす病気です。多くの場合、足の動脈の血行が悪くなって、足の冷え・痛みが起こります。また、足に傷ができても血行が悪いことから、損傷した部分の治りが悪くなり潰瘍ができたりします。症状がひどくなると、歩くたびに痛みが起こって歩行が困難(間歇性跛行:かんへつせいひこう)となることもあります。。
アンプラーグは、動脈が狭くなる原因を取り除くことで、慢性動脈閉塞症の症状である冷えや痛み・潰瘍を改善させます。動脈が狭くなる原因としては、「血管の中に血栓(血の塊)ができて詰まる」「血管が収縮して流れが悪くなる」という2つの原因があります。アンプラーグの主成分であるサルポグレラートは、これら2つの要因にともに関わる生体内物質セロトニンの作用を弱める作用があります。
サルポグレラートの標的となる分子は、5HT2受容体(5HTはセロトニンの略称)と呼ばれるタンパク質です。5HT2受容体は、血液の凝固にかかわる血小板や、血管の筋肉(血管平滑筋)にあり、セロトニンが結合することで活性化してこれらの細胞で生理機能を引き起こします。
血栓は、血管の内側表面にある内皮にできた傷が引き金となって起こります。内皮が傷つくと、周辺の血管平滑筋からセロトニンが放出されます。すると、血小板の表面にある5HT2受容体が活性化され、傷がある部分に血小板が集まって固まり(血小板凝集)、内皮の傷が修復されます。しかし、凝集した血小板もセロトニンを放出するので、必要以上の血小板凝集がおこり血栓ができるのです。
また、血小板から放出されたセロトニンは、血管平滑筋にある5HT2受容体を刺激して筋肉を収縮させます。すると、血管が狭くなり血流が悪くなって栄養や酸素が行き渡らなくなるのです。
サルポグレラートは5HT2受容体に結合して、セロトニンの作用を打ち消すことで、血栓をできにくくしたり血管平滑筋を緩めて血管を拡張させます。アンプラーグは、セロトニンの複数の生理作用を抑制することで、足への血流を改善し慢性動脈閉塞症の症状を改善するのです。
[この記事を書いた人]
薬作り職人
国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。
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