ボトックス(A型ボツリヌス毒素)とはどんな薬?

ボトックス(グラクソ・スミスクライン、主成分 A型ボツリヌス毒素)は、筋肉の痙攣(異常な収縮)を抑制する効果を持つ注射剤です。例えば、眼瞼痙攣(まぶたの筋肉のけいれん)や、痙性斜頸(首の筋肉が意思とは関係なく収縮し、首がまっすぐにできない状態)、片側顔面痙攣、痙攣性発声障害などの治療に、ボトックス注射が用いられます。

また、ボツリヌス毒素の筋肉を緩める作用を、眉間や目尻のシワの治療に応用したボトックスビスタ(アラガン・ジャパン、主成分 A型ボツリヌス毒素)という薬剤もあります。

ボツリヌス毒素は、食中毒の原因菌として知られるボツリヌス菌が産生するタンパク質で、神経毒として知られています。ボツリヌス毒素は、神経筋結合部(運動神経と筋肉との接合部)に作用し、運動神経が筋肉を収縮させる命令を出せなくします。ボトックスは、目や顔、首における運動神経の機能を抑制することで、筋肉のけいれんを止めるのです。

ボトックス注射の特徴は、作用の持続期間の長さです。一回の治療で、効果は3~4ヶ月持続します。これは、ボツリヌス毒素が、運動神経と筋肉との連絡役を果たす分子「アセチルコリン」の働きを止めるからです。

筋肉の収縮は、運動神経の末端からアセチルコリンが分泌されて起こります。ボツリヌス毒素は、神経細胞がアセチルコリンが放出する仕組みを破壊することで、筋収縮の引き金を止め痙攣を鎮めます。破壊された運動神経からアセチルコリンが再放出可能となるには、新しい運動神経が伸びてくるまでの時間、つまり3~4ヶ月という時間が必要です。これが、ボトックス注射の持続期間が長い理由です。

ボトックス注射は、痙攣が起こる場所(まぶたや首など)の筋肉内に行います。これは、ボツリヌス毒素の効果が全身に及ばないようにするためです。

ボツリヌス毒素は、非常に強い筋弛緩作用を持っています。特に、呼吸器の筋肉が障害されると呼吸ができなくなります。ボツリヌス菌により起こる食中毒では、最悪の場合は呼吸困難によって死に至ります。実際、ボツリヌス毒素の強さは、マウスに対する致死効果を指標とした単位で表されます。

ボツリヌス毒素の1単位は、複数匹のマウスの腹腔内に投与したとき、半数のマウスが死ぬ投与量(LD50値)です。ボトックスには、A型ボツリヌス毒素が1瓶あたり100単位含まれています。眼瞼痙攣の治療では、1カ所あたり1.25-2.5単位の量を数カ所に筋肉内注射します。

古くから様々な薬が天然毒から生まれています。ボトックスもその一つですが、ボツリヌス毒素ほどの強力な物質を、そのまま薬として使うという例は、珍しいのではないかとおもいます。