トランサミン(トラネキサム酸)とはどんな薬?

トランサミン(第一三共、主成分トラネキサム酸)は、出血しやすくなる病気(白血病や再生不良性貧血)や、体の特定の部位(肺や鼻、歯茎、性器)で出血が起こりやすい状態のとき、出血を起こしにくくする効能を持ちます。

一方、トランサミンは、湿疹や蕁麻疹(じんましん)、薬疹などの皮膚の病気の腫れやかゆみ、口内炎や扁桃腺炎での痛みや腫れ、充血の治療、口内炎の治療にも用いられます。

このように、トランサミンは「出血の抑制」と「炎症の抑制」という全く異なる症状に効果を示します。このように全く異なる種類の症状に効果を示す理由は、主成分であるトラネキサム酸の作用メカニズムにあります。まず、出血抑制のメカニズム、次に炎症の抑制のメカニズムについてお話します。

血液には、血液を固めるメカニズム(凝固系)と、血液の塊を溶かすメカニズム(線溶系)の2つのメカニズムが共存しています。凝固系は、出血を止めるために血液の固まりをつくる仕組みです。一方、線溶系は血液の固まりを溶かすための仕組みです。生体内で血液がやたらめったらに出血したり固まったりしないのは、凝固系と線溶系のバランスがとれているからです。

凝固系と線溶系のバランスが崩れると、体内の血液の固まりやすさに異常が生じます。トランサミンは、線溶系の働きが異常に亢進して、出血がしやすくなっている状態で用いられ、線溶系を妨害して出血しにくい状況を作り出します。

トランサミンが作用する線溶系は、フィブリンというタンパク質でできた血液の塊を溶かすための仕組みです。出血したというシグナルが凝固系に入ると、血液凝固因子と呼ばれるタンパク質によってさまざまな酵素反応が連続的に起こり、最終的にフィブリンができます。フィブリンは、網状の構造をしていて血液の塊(血餅)を作り出します。血管にでききた血餅は血液の流れを妨げる「血栓」となります。

フィブリンでできた血餅は、時間が経つと分解されます。血餅は出血を止めるのに重要である一方で、血管に詰まって血栓ができると血液の流れを悪くなって、体にとって悪い影響をもたらすからです。そのため、体には血栓を溶かすための仕組み「線溶系」が用意されています。

白血病や再生不良性貧血などの病気では、線溶系の働きが必要以上に高くなり、何らかの傷害で止血が必要になっても、線溶系の働きが高くて血餅がすぐ壊れてしまい、出血しやすくなります。トランサミンの主成分であるトラネキサム酸は、過剰な線溶系の働きを抑制して、出血を防ぎます。

線溶系でフィブリンを分解するのはプラスミンというタンパク分解酵素です。トランサミンは、プラズミンの働きを抑制して線溶系の働きを低下させ、出血を起こりにくくします。

プラスミンは、線溶系だけでなく、生体反応のいろいろな場面で登場します。その中の一つに、炎症反応があります。トランサミンが炎症に関連する症状に効果を示す仕組みは、ここにあります。

プラスミンは、炎症の痛みや腫れの原因となるキニンという物質の産生をコントロールします。炎症の引き金となるシグナルが生体にはいると、プラスミンがキニンの原料であるキニノーゲンを分解してキニンを産生し、腫れや痛みが起こります。トランサミンは、プラスミンの働きを抑制してキニンの産生を抑制し、炎症の症状を抑えます。

トランサミンの主成分、トラネキサム酸は、歯磨き粉の成分としても使われています(「トラネキサム酸配合」をキャッチフレーズにしている歯磨き粉もありますね)。これは、歯茎からの出血を抑える作用と、歯茎の炎症を抑える作用という、二つの効果が同時に期待されるからです。プラスミンの性質をうまくとらえた、賢い使い方ですね。


トランサミン(トラネキサム酸)の構造式