テルネリン(塩酸チザニジン)とはどんな薬?

テルネリン(ノバルティス、主成分塩酸チザニジン)は、肩こりや腰痛、五十肩など、筋肉の強張りにより起こる症状の治療に用いられる薬です。また、テルネリンは、脊髄の障害や脳性まひによる痙性麻痺(けいせいまひ;筋肉のつっぱり、こわばりや麻痺)をとるためにもつかわれます。

テルネリンは、強張った筋肉を緩める働きをもちますが、強張った筋肉に直接作用する薬ではありません。テルネリンは、脳から脊髄そして筋肉へと至る神経系の働きを抑えることで、神経が筋肉に発する収縮のシグナルをとめて、筋肉の収縮を抑えるのです。

テルネリンは、神経系の中のシナプスという部分の働きを抑えます。シナプスというのは、神経から別の神経へと信号を渡すための場所で、神経系のあちこちに存在します。例えば、脳から末梢に向けてでた神経は、脊髄の中で運動神経(脊髄から筋肉へつながっている神経)とシナプスを作り、脳からの信号を運動神経へ伝えます。

シナプスにおいて、信号を伝える細胞をシナプス前細胞、信号を受け取る細胞をシナプス後細胞と呼んでいます。上の例だと、脳から脊髄に至る神経細胞がシナプス前細胞、運動神経がシナプス後細胞となります。シナプス前細胞とシナプス後細胞は、狭い隙間を挟んで、お互いに向かいあっています。

「筋肉を収縮させよ」という脳の指令を受けると、シナプス前細胞が興奮して、神経伝達物質という化合物がシナプス後細胞にむけて放出されます。神経伝達物質は、シナプス後細胞の受容体というタンパク質に結合してこれを興奮させ、筋肉に対して収縮の信号をつたえ、脳の命令どおり筋肉が収縮するのです。

シナプスにおける信号の伝達は、いろいろなメカニズムによって強弱をコントロールされています。テルネリンは、このメカニズムを利用して、神経系での信号伝達をコントロールします。

テルネリンは、シナプス前細胞にあるα2アドレナリン受容体というタンパク質に結合して、これを活性化します。α2アドレナリン受容体は、シナプス前細胞から神経伝達物質が放出されるのを抑制し、シナプスの活動を静める働きを持っています。テルネリンがα2アドレナリン受容体を介して、シナプスでの運動ニューロンの興奮が抑えることにより、筋肉の収縮させる信号が弱くなり、筋肉の収縮が弱まって、肩こりなどの筋肉のこりがとれるのです。

さて、このシナプスは、運動神経の信号伝達にだけ関わるわけではありません。脊髄において、痛みを伝える知覚神経の信号伝達にも関わりますし、脳細胞同士の信号伝達にも関わっています。この様に、シナプスは非常に多くの生体機能に関与するため、テルネリンには、いろいろな副作用が現れます。

たとえば、テルネリンは知覚神経に作用するので、四肢のしびれ感、下肢のビリビリ感等の知覚異常を起こしたりします。また、テルネリンは脳の活動を抑制してしまうので、テルネリンを飲むと眠くなります。また、血圧をコントロールする脳の部分の活動も抑制するので、血圧がガクッと下がったりもします。テルネリンによる運動神経の抑制が強すぎると、ろれつがまわらなくなったり、めまいやふらつきが起こったりもします。

テルネリンの作用メカニズムは、肩こりをとる、という目的のためには、ちょっと大げさすぎるかもしれません。もっと別のメカニズムの薬があればいいな、とも思うのですが、肩こりの薬を作るとなると、、、それだけの余裕?がある製薬会社ってあるかなぁ?

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


テルネリン(塩酸チザニジン))の構造式