ジスロマック(アジスロマイシン水和物)とはどんな薬?

ジスロマック(ファイザー、主成分アジスロマイシン水和物)は、ブドウ球菌やレンサ球菌、肺炎球菌などのさまざまな細菌によって起こる感染症の治療に用いられる抗生物質です。咽頭炎や扁桃炎のような呼吸器の感染症や、マイコプラズマ感染による肺炎の治療に好んで用いられます。主成分のアジスロマイシンは、細菌のタンパク質合成装置を働けなくして細胞増殖を止め、抗菌作用を示します。

ジスロマックの主成分であるアジスロマイシンは、マクロライド系抗生物質と呼ばれる種類の薬剤です。マクロライドとは抗生物質によく見られる構造のことで、化学構造式に大きな環状の構造を含みます(アジスロマイシンの場合は15個の原子からなる環があります)。

ジスロマック(アジスロマイシン)の構造式

アジスロマイシンは、ブドウ球菌やレンサ球菌、肺炎球菌やマイコプラズマなどのさまざまな細菌のタンパク合成を止める作用を持ちます。細菌が増殖するには、新しい細胞の材料となるタンパク質を合成する必要があります。タンパク質の合成は、細胞内のリボソームというタンパク質合成装置で行われます。

アジスロマイシンは、リボソームの部品(70Sリボソームの50Sサブユニット)に結合して、タンパク質合成装置をストップさせます。その結果、細菌はタンパク合成ができなくなり細胞増殖もできなくなります。一方、ヒトのリボソームは細菌のものとは構造が異なります。そのため、アジスロマイシンは細菌の増殖だけを止めることができます。

アジスロマイシンは、増殖を止めるだけ(静菌的抗菌作用)で、細菌を殺す(殺菌的抗菌作用)わけではありません。細菌は増殖できないので、そのまま寿命を迎えて死ぬか、免疫細胞に食べられてしまい、その数を減らします。


ジスロマックの特徴として、感染症の治療でよく使われているβラクタム系抗生物質(ペニシリンフロモックスメイアクトなど)が効果を示さない、マイコプラズマという細菌に対して抗菌作用を持つことが挙げられます

マイコプラズマは、ヒトの細胞内に寄生して増殖する細菌で、肺の細胞に感染するとマイコプラズマ肺炎を起こします。マイコプラズマ肺炎は小学生以上の子供に多く見られ、長くしつこく続く咳(せき)が特徴です。

βラクタム系抗生物質は、細菌の骨格を作る細胞壁の材料「ペプチドグリカン」の合成を止めて抗菌作用を示します。細胞壁は、細菌の内と外の圧力差を吸収する役割を持つので、細胞壁がなくなると圧力バランスが崩れ、細菌が破裂してしまうのです。しかし、マイコプラズマにはペプチドグリカンでできた構造がありません。そのため、βラクタム系抗生物質は、マイコプラズマに対して効果がないのです。

また、アジスロマイシンは、細菌が感染する臓器に分布しやすい性質があるので、ジスロマックは多量の薬剤を患部に届けられるという優れた性質を持ちます。これは、細菌を攻撃する役割を持つ白血球が、アジスロマイシンの運び屋となっているからです。

ジスロマックを服用すると、血液中に吸収されたアジスロマイシンは白血球の中に取り込まれ、細胞内のリソソームという袋に閉じ込められます。アジスロマイシンは、リソソームの中に入ると、リソソーム内外の酸性度の違いにより、リソソームの袋を通り抜けにくいタイプ(イオン型といいます)に変化するからです。

感染部位に、アジスロマイシンを取り込んだ白血球が到着すると細菌を食べ始めます。食べられた細菌はリソソームに取り込まれます。すると、リソソーム内の酸性度が変わり、アジスロマイシンはリソソームの袋を通り抜けられるタイプ(分子型)に戻り、白血球の外に放出されて感染部位の細菌に抗菌作用を示す、というわけです。

このメカニズムにより、アジスロマイシンは白血球が集まる感染部位に高濃度の薬剤を効率的に送り届ける事ができます。生体内の特定の場所に薬を分布させるための仕組みをドラッグデリバリーシステム(DDS:Drug Delivery System;DDS)と呼びますが、ジスロマックの場合には、生体内の白血球を用いたDDSなのです。いわば、自然がつくりだしたDDSというわけで、これには頭が下がります。