プロトピック| 病院でもらった薬の値段Part2


プロトピック
(タクロリムス水和物 )
 プロトピック(アステラス製薬、主成分タクロリムス水和物、薬価 0.1% 1g = 141.3 円)は、アトピー性皮膚炎の治療に使われる薬です。プロトピックは、もともと免疫抑制剤として開発されたプログラフという薬を、アトピー性皮膚炎の治療薬とするために、塗り薬(軟膏)にしたものです。

 プロトピックという名前のプロはプログラフのプロ、プロトピックのトピックは局所、つまり皮膚のアトピー性皮膚炎が起こっている場所、を意味しています。アトピー性皮膚炎が起こっている場所に塗るプログラフというわけでプロトピックという名前が付いたのです。

 プロトピックが発売される前は、アトピー性皮膚炎の治療には、多くの場合外用ステロイド剤という塗り薬が使われていました(もちろん現在も使われています)。外用ステロイド剤は炎症を抑える効果が非常に強いことから、アトピー性皮膚炎の第一選択薬と考えられてきました。

 ところが、その外用ステロイド剤にも弱点があります。たとえば、顔面に生じたアトピー性皮膚炎の治療に外用ステロイド剤を用いると、副作用として皮膚が薄くなったり(皮膚萎縮)、赤いあざができたりします。これは、外用ステロイド剤が皮膚の細胞の増殖を強力に抑えてしまうためだと考えられています。そのため、ステロイドとは違うメカニズムをもつアトピー性皮膚炎治療薬が求められていました。

 プロトピックは、プログラフの免疫抑制作用がアトピー性皮膚炎の治療に使えるのではないか、というアイデアから開発されました。アトピー性皮膚炎が起こっている部位では、いろいろな免疫細胞(リンパ球)が活発に働いています。これらの免疫細胞は、炎症を起こす様々な物質(サイトカインといいます)を分泌することで、炎症による痛み、かゆみを引き起こします。この免疫細胞の働きを、免疫抑制剤であるプログラフで弱めてやろうというわけです。

 ただし、プログラフは、飲み薬であるので、全身に免疫抑制作用があらわれます。これは、体の抵抗力を落とすことになり、体にとってよいことではありません。また、プログラフは、副作用として腎臓などの機能に影響を与えることが知られていました。こんな事情で、プログラフそのものをアトピー性皮膚炎の治療薬とすることはできませんでした。

 と、ここで、「プログラフを飲むのではなく、皮膚に直接塗ってやれば、全身への作用・副作用をなくすことができるのではないか」というアイデアが生まれました。プロトピック誕生の瞬間です。
 
 プロトピックは、免疫細胞のなかでもT細胞というリンパ球の働きを弱める作用を持っています。プロトピックは、T細胞のなかにある酵素タンパク質、カルシニューリンの働きを抑えます。カルシニューリンは、T細胞がサイトカインを作るためのスイッチの役割を果たしてます。そのため、プロトピックによって、カルシニューリンの働きを抑えられると、サイトカイン産生のスイッチが切れ、サイトカインがT細胞から分泌されなくなります。そのため、プロトピックを使うと、サイトカインによる炎症が起こらなくなるわけです。

 外用ステロイド剤も免疫細胞の働きを抑える作用を持っていますが、プロトピックとは異なるメカニズムで効果を示します。そのため、外用ステロイド剤で見られる副作用は、プロトピックでは起きません。一方、プロトピックのアトピー性皮膚炎に対する作用は、外用ステロイド剤(のなかでも中程度の強さを持つもの)と同程度であることから、外用ステロイド剤の代わりとして十分に使うことができます。そして、プロトピックは、外用ステロイド剤が使いづらい顔面のアトピー性皮膚炎の治療などに使われるようになりました。

 プロトピックに限らず、飲み薬を塗り薬にするというアイデアは、いろんな薬で用いられています。プロトピックのように全身性の副作用を減らすため(実は、外用ステロイド剤も全身性の副作用を減らすために、ステロイド剤を塗り薬にしたものです)や、長い時間一定の割合で薬を吸収させるため(喘息の治療薬、鎮痛薬、狭心症の薬なんかでみられます)など、目的は様々です。

 このようなアイデアを可能にするのが、製剤技術という技術です。薬作りは、薬効をもつ化合物を見つけるだけで終わるのではありません。薬を患者さんにとって一番使いやすい形(飲み薬とか塗り薬とか)にする必要があるのです。製剤技術の研究により、ひとつの化合物を、様々な用途でつかうことができるようになりました。これからも、製剤技術の発達によって、新しいアイデアの薬が生まれることを期待しています。



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プロトピック(タクロリムス水和物)の構造式
プロトピック(タクロリムス水和物)の構造式

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